JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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[U-24] 新型コロナウィルス感染症と地球の環境・災害

2020年7月13日(月) 14:15 〜 15:45 Ch.1

コンビーナ:松本 淳(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境学域)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、和田 章(東京工業大学)、山中 大学(総合地球環境学研究所/神戸大学名誉教授)、座長:松本 淳(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境学域)

14:42 〜 14:54

[U24-03] ポストコロナと自然共生社会

★招待講演

*山野 博哉1 (1.国立環境研究所)

キーワード:ポストコロナ、自然共生社会、ワンヘルス、新興感染症、生物多様性保全、地域循環共生圏

新型コロナウィルスが猛威をふるっている。新型コロナウィルスに限らず、近年、感染症が大きな社会問題として取り上げられることが増えてきた。鳥インフルエンザ、CSF(豚熱)、エボラウィルスといった感染症を耳にされた方も多いであろう。これらに共通するのは、それが野生生物由来であることである。新型コロナウィルスに関しても、コウモリが宿主である可能性が高いとされている。

 標題にある自然共生社会とは、生物多様性のもたらす恵みを将来にわたって継承し、自然と人間との調和ある共存の確保された社会のことである。野生生物由来の感染症が拡大していることは、自然と人間との調和が失われ、自然共生社会が脅かされていることに他ならない。

 コロナ禍を乗り越えたポストコロナ社会においては、自然と人間の共存について2つの側面から考える必要がある。第一は、新型コロナウィルスのリスクが残る、あるいは新型コロナに次ぐ新興感染症のリスクは常にあるというウィズコロナ的な視点で自然と人間との関係を見直し、環境・動物・人間全体の健全性を確保するOne Healthを目指すことである。そもそも、自然共生社会というと聞こえは良いが、これまで人間は自然を脅かし、生物多様性を損ねてきた。日本においては、生物多様性の危機の要因として、生息地の破壊や乱獲、耕作放棄など人の手が加わらなくなること、人間が持ち込む汚染や侵入種、気候変動が考えられている。これらの要因は相互に関係しており、感染症に関しては、気候変動による生物分布変化、生息地破壊による野生生物との接触、グローバル化による人やモノの移動による侵入、人口減少による管理不足による拡大といったことが考えられる。原初的な自然との適度な距離感、サプライチェーンの見直し、里山など人の手が加わった二次的自然の適切な管理が必要とされている。
 第二は、コロナ禍をきっかけに、アフターコロナの社会をデザインするという視点であり、全体として感染症や気候変動などの危機に柔軟に適応する社会を構築することである。現在、テレワークによる働き方が模索されている。また、人やモノの移動が抑制され、地産地消など地域に密着した生活様式が進んでいるかもしれない。すなわち、現在は一極集中せず地域資源を活用するという社会変革がすでに強制的に進んでいる状況と言えるのかもしれない。生活や経済を立て直すとともに、生物多様性の
保全による生態系サービスの確保など、国内の地域資源を保全して活用し、感染症や気候変動に備えることが可能かもしれない。
 2018年に閣議決定された第五次環境基本計画では、「地域循環共生圏」が提唱された。地域資源を最大限活用して自立分散型の社会を形成し、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指すものである。地域の生物多様性を保全し持続的に活用する自然共生社会はその中核であり、強制的に社会変革が進みつつある今こそ、ポストコロナにおける自然共生社会の実現を考える時であろう。