日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS10] 成層圏・対流圏過程とその気候への影響

2022年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高麗 正史(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻大気海洋科学講座)、コンビーナ:田口 正和(愛知教育大学)、木下 武也(海洋研究開発機構)、コンビーナ:江口 菜穂(Kyushu University)、座長:江口 菜穂(Kyushu University)、高麗 正史(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻大気海洋科学講座)

15:00 〜 15:15

[AAS10-06] 重力波解像大気大循環モデルを用いた普遍鉛直波数(~m-3)スペクトルに対する重力波の寄与の研究

*奥井 晴香1佐藤 薫1渡辺 真吾2 (1.東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻、2.国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC))


キーワード:重力波、中層大気、大気力学

重力波は、中層大気の力学現象において重要な役割を持っている。大型大気レーダーやラジオゾンデなどの鉛直高解像度の観測から、多くの緯度において水平風と気温の鉛直波数mスペクトルがm-3に近い傾きを持つ普遍的な構造を示すことが指摘されている。これについて、重力波が砕波しないギリギリの振幅を保って伝播する、つまり飽和しているとの仮定のもと、スペクトルの急峻な傾斜を理論的に説明する研究が行われた。しかし、普遍mスペクトルを構成する風や気温揺らぎがすべて重力波であること示す証拠はほとんど示されていない。この仮定が適切であるかを確認するため、本研究では重力波を解像するハイトップ大気大循環モデルの出力データを用いて中層大気重力波のスペクトル解析を行った。重力波は水平全波数21~639の擾乱成分として取り出した。重力波の普遍スペクトルへの寄与を評価するために、観測的研究でしばしば行われるように鉛直プロファイルから線形トレンドを除去して擾乱成分(以下、”全擾乱成分”と呼ぶ)を取り出し、そのスペクトルを重力波スペクトルと比較した。
モデルの再現する全擾乱成分のスペクトルは、観測と似た、急峻な傾きを持っていた。重力波と全擾乱成分のスペクトルの比較から、スペクトルの傾きが急峻な波数帯のうち、高波数では両者がよく一致する一方、低波数では重力波スペクトルは全擾乱スペクトルに比べてかなりスペクトル密度が小さいことがわかった。これは、スペクトルが急峻な傾きを持つ波数帯であっても、低波数では重力波以外の擾乱成分も大きくスペクトル密度に寄与することを示している。低波数での両スペクトルの乖離は低緯度で特に大きかった。この原因として、赤道に捕捉される波がスペクトル密度に寄与していることが考えられる。
さらに、中層大気中の重力波スペクトルの特性波数、傾き、スペクトル密度の分布を調べた。特性波数mg*は、重力波スペクトルの急峻な傾きを持つ波数帯の低波数側端点の波数に対応する。高高度ほど、mg*は小さくmg*におけるスペクトル密度(F0/2)は大きくなっていた。これは、重力波が上方伝播する際に、大気密度が高度に従って指数関数的に減少するために振幅が増大し、より低波数でも飽和が起こるようになるという理論的な推測と整合する。しかし、本研究で確認されたスペクトル形状の鉛直変化には、このメカニズムだけでは説明できない点がある。それは、中層大気の西風・東風ジェットの軸付近にみられた、大きなスペクトルの傾きである。先述の重力波の飽和に加えて、ジェット下部の強い鉛直シアーもまた、急峻な重力波スペクトルの傾きを形成する役割を担っていると考えられる。

Reference:
Okui, H., Sato, K., and Watanabe, S., Contribution of gravity waves to universal vertical wavenumber (~m-3) spectra revealed by a gravity-wave-permitting general circulation model, submitted to Journal of Geophysical Research: Atmospheres.