日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS11] 大気化学

2022年5月27日(金) 10:45 〜 12:15 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:内田 里沙(一般財団法人 日本自動車研究所)、コンビーナ:坂本 陽介(京都大学大学院地球環境学堂)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)、コンビーナ:石戸谷 重之(産業技術総合研究所)、座長:持田 陸宏(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、長浜 智生(名古屋大学宇宙地球環境研究所)

11:00 〜 11:15

[AAS11-07] 大気化学の将来構想:エアロゾルの動態と放射・雲過程との相互作用

*松井 仁志1大畑 祥2,3、當房 豊4,5松木 篤6板橋 秀一7大島 長8鈴木 健太郎9佐藤 陽祐10,11 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.名古屋大学宇宙地球環境研究所、3.名古屋大学高等研究院、4.国立極地研究所、5.総合研究大学院大学、6.金沢大学環日本海域環境研究センター、7.電力中央研究所、8.気象庁気象研究所、9.東京大学大気海洋研究所、10.北海道大学大学院理学研究院、11.理化学研究所計算科学研究センター)

キーワード:エアロゾル、エアロゾル-放射・雲相互作用、光吸収性エアロゾル、氷晶核、長期モニタリング、越境大気汚染

大気エアロゾルは、様々な人間活動・自然活動によって大気中に放出され、その粒径や化学組成などは多岐にわたる。また、大気エアロゾルの重要性は、環境・人体への悪影響、大気汚染、気候影響など、局所スケールから全球スケールまで幅広い時空間スケールに及ぶ。エアロゾルは、太陽放射と地球放射の散乱・吸収や雲アルベド・雲物理・降水過程への影響を通して地球の放射収支を変化させ、これらのエアロゾル-放射・雲相互作用を通して地球の気候変化・気候変動に影響を与える。

エアロゾルの大気中の動態とエアロゾル-放射・雲相互作用に関する理解は、過去約10年間での観測(現地観測、衛星観測)および数値モデルの両面での発展とそれらを融合した研究によって大きく進展してきた。現地観測では、エアロゾルの粒径や化学組成などの物理化学特性を個々の粒子レベルで測定可能な技術が開発され、これらの物理化学特性とそれを決める大気プロセス(新粒子生成、有機エアロゾルの生成過程、降水による除去過程など)の理解が大きく進んだ。衛星観測では、能動型センサと受動型センサの複合利用により、エアロゾル-雲相互作用の観測的な理解が進んだ。また、数値モデルでは、大循環気候モデル、全球雲解像モデル、化学輸送モデルへのエアロゾルの物理化学特性・プロセスの導入が進み、大気観測データによる検証・制約に基づくエアロゾルの時空間分布とエアロゾル-放射・雲相互作用の推定の高度化が進められてきた。

エアロゾルとその気候影響の理解が進展してきた一方で、エアロゾル-放射・雲相互作用による放射強制力の推定の不確定性幅は過去10年間で減少しておらず、気候モデル間の推定のばらつきは依然として大きい(IPCC第6次評価報告書)。エアロゾル-放射・雲相互作用の推定の信頼性を高めていくためには、エアロゾルの時空間分布を観測に基づいて正確に把握し、それらを数値モデルで適切に表現する必要があり、いくつかの重要な課題が残されている。まず、気候モデル間のエアロゾルの推定のばらつきが特に大きく、現地観測が他の場所よりも少ない遠隔領域(北半球の高緯度域、南半球、外洋域および対流圏上層・中層)におけるエアロゾルの動態に関する観測的知見を蓄積し、このような遠隔領域におけるエアロゾルの動態や発生源の寄与を正しく理解することが必要である。また、エアロゾル-放射・雲相互作用に関わる物理化学特性とプロセスの理解をさらに向上させていくことも必要である。たとえば、氷晶核粒子に対する氷を含む雲・降水系の応答は特に理解が不十分であり、氷晶核粒子の大気存在量・動態やエアロゾルの変化に対する雲・降水系の応答などを物理化学特性・プロセスのレベルで理解していくことが望まれる。そして、各物理化学特性・プロセスの表現の改良、遠隔領域を中心とした観測による検証・制約、高解像度化などの数値モデルの改良によって、数値モデルによるエアロゾルの観測再現性を向上させ、エアロゾル-放射・雲相互作用の推定をさらに高度化させていくことが必要である。さらに、今後人為起源エアロゾルが減少し、相対的に自然起源エアロゾルの重要性が増すことを踏まえ、海洋・陸域・雪氷との相互作用を含む、地球システムとエアロゾルとの相互作用・フィードバック過程の理解を深め、その重要性を明らかにしていくことも必要である。

本発表では、大気エアロゾルの動態とエアロゾル-放射・雲相互作用に関わる近年の知見をまとめ、現状の問題や今度の課題について議論する。