11:00 〜 13:00
[AAS11-P11] レーザー誘起蛍光法を用いたNaCl粒子へのプロペン由来過酸化ラジカル取り込み係数測定
キーワード:過酸化ラジカル、取り込み係数、LP-LIF
対流圏オゾン(以下オゾン)は光化学オキシダントの主成分であり、今日の大気環境問題の主な論点の一つである。オゾンは、揮発性有機化合物(VOCs)と窒素酸化物(NOx= NO+NO2)を前駆物質として光化学反応によって生成するが、日本ではそれら前駆物質の減少に反して1980年代後半以降緩やかに増加傾向であった。これは大気質改善に伴うエアロゾル濃度減少が原因の1つである可能性がある。つまり、オゾン生成機構(HOXサイクル:OH→RO2→HO2→OH)に参加するラジカル種がエアロゾルとの不均一反応で気相から除去される速度が大気質改善により減少した結果、オゾン生成効率が増加すると考えることができる。しかし、エアロゾルによるオゾン生成抑制効果の定量的な評価に必要なラジカル取り込みに関わる速度パラメータである、取り込み係数(γ)測定法は、水酸化ラジカル(OH)と過酸化水素ラジカル(HO2)のγについてはよく調べられているが、実験的な困難さから過酸化ラジカル(RO2)ではほとんど調べられておらず、さらにヒドロキシ基(-OH)を持つRO2ラジカル(R(OH)O2)では全く事例がなかった。
本研究ではエアロゾルによるR(OH)O2ラジカルの γ測定方法の確立を目的として、レーザー誘起蛍光法の1つであるLP-LIF(Laser-Pumped Laser-Induced Fluorescence)(Sadanaga et al., 2004)を用い,プロペン由来R(OH)O2ラジカル(CH3CH(OO)CH2OH)の塩化ナトリウム(NaCl)粒子へのγ測定を行った。γはLP-LIFシステムによるラジカル減衰速度定数測定と同時に走査型移動度分級装置(SMPS)による粒子濃度測定を実施することで決定した。粒子は溶液をネブライザーで噴霧することにより生成させ、装置内の相対湿度を85%程度に保ち液体粒子として測定した。NaClは純粋な粒子(None)と、遷移金属イオン(CuCl2)と還元剤(アスコルビン酸(AA))それぞれを添加した粒子の計3種類を用意してそれぞれのγ測定実験を行った。
プロペン由来R(OH)O2ラジカル(CH3CH(OO)CH2OH)ではγNone=0.04±0.01、アスコルビン酸を添加した粒子では、γAA=0.24±0.04であることが明らかになった。一方で、CuCl2を添加した粒子では純粋なNaCl粒子の場合と比較してγの変化はないことも確認された(γCuCl2=0.04±0.01)。これらはR(OH)O2ラジカルのγとして初めての測定値であるが、付随して行ったHO2ラジカルのγ測定結果が文献値(Taketani et al., 2008)をよく再現したことから実験手続き上問題なく妥当な値であると考えられる。
本研究の測定結果は、NaCl粒子へのR(OH)O2ラジカルのγが実大気では0.04~0.24程度の間に存在する可能性を示唆しており、RO2のγの推奨値0.1(Jacob, 2000)をある程度支持する値であると考えられる。一方で、0.5~2.5倍程度の不確実性を孕んでいるため、他種RO2のγ測定実験や実際のエアロゾル粒子でγ測定実験を行う必要がある。
Jacob, D. J. (2000). Heterogeneous chemistry and tropospheric ozone. Atmos. Environ., 34, 2131-2159.
Kohno, N., et al. (2021). Rate constants of CH3O2 + NO2 ⇔ CH3O2NO2 and C2H5O2 + NO2 ⇔ C2H5O2NO2 reactions under atmospheric conditions. Int. J. Chem. Kinet., 53, 571-582.
Sadanaga, Y., et al. (2004). Development of a measurement system of OH reactivity in the atmosphere by using a laser-induced pump and probe technique. Rev. Sci. Instrum., 75(8), 2648-2655.
Taketani, F., et al. (2008). Kinetics of Heterogeneous Reactions of HO2 Radical at Ambient Concentration Levels with (NH4)2SO4 and NaCl Aerosol Particles. J. Phys. Chem. A, 112(11), 2370–2377.
本研究ではエアロゾルによるR(OH)O2ラジカルの γ測定方法の確立を目的として、レーザー誘起蛍光法の1つであるLP-LIF(Laser-Pumped Laser-Induced Fluorescence)(Sadanaga et al., 2004)を用い,プロペン由来R(OH)O2ラジカル(CH3CH(OO)CH2OH)の塩化ナトリウム(NaCl)粒子へのγ測定を行った。γはLP-LIFシステムによるラジカル減衰速度定数測定と同時に走査型移動度分級装置(SMPS)による粒子濃度測定を実施することで決定した。粒子は溶液をネブライザーで噴霧することにより生成させ、装置内の相対湿度を85%程度に保ち液体粒子として測定した。NaClは純粋な粒子(None)と、遷移金属イオン(CuCl2)と還元剤(アスコルビン酸(AA))それぞれを添加した粒子の計3種類を用意してそれぞれのγ測定実験を行った。
プロペン由来R(OH)O2ラジカル(CH3CH(OO)CH2OH)ではγNone=0.04±0.01、アスコルビン酸を添加した粒子では、γAA=0.24±0.04であることが明らかになった。一方で、CuCl2を添加した粒子では純粋なNaCl粒子の場合と比較してγの変化はないことも確認された(γCuCl2=0.04±0.01)。これらはR(OH)O2ラジカルのγとして初めての測定値であるが、付随して行ったHO2ラジカルのγ測定結果が文献値(Taketani et al., 2008)をよく再現したことから実験手続き上問題なく妥当な値であると考えられる。
本研究の測定結果は、NaCl粒子へのR(OH)O2ラジカルのγが実大気では0.04~0.24程度の間に存在する可能性を示唆しており、RO2のγの推奨値0.1(Jacob, 2000)をある程度支持する値であると考えられる。一方で、0.5~2.5倍程度の不確実性を孕んでいるため、他種RO2のγ測定実験や実際のエアロゾル粒子でγ測定実験を行う必要がある。
Jacob, D. J. (2000). Heterogeneous chemistry and tropospheric ozone. Atmos. Environ., 34, 2131-2159.
Kohno, N., et al. (2021). Rate constants of CH3O2 + NO2 ⇔ CH3O2NO2 and C2H5O2 + NO2 ⇔ C2H5O2NO2 reactions under atmospheric conditions. Int. J. Chem. Kinet., 53, 571-582.
Sadanaga, Y., et al. (2004). Development of a measurement system of OH reactivity in the atmosphere by using a laser-induced pump and probe technique. Rev. Sci. Instrum., 75(8), 2648-2655.
Taketani, F., et al. (2008). Kinetics of Heterogeneous Reactions of HO2 Radical at Ambient Concentration Levels with (NH4)2SO4 and NaCl Aerosol Particles. J. Phys. Chem. A, 112(11), 2370–2377.