11:00 〜 13:00
[AAS11-P13] クリーギー中間体とブタンジオール反応から生成するα-アルコキシアルキルヒドロペルオキシドの液相分解
キーワード:エアロゾル、クリーギー中間体、二次有機エアロゾル
[背景]
気候変動や地球温暖化のメカニズムを考察する上で、大気中のエアロゾルは重要な要素である。植物由来の二次有機エアロゾル(SOA)は大気エアロゾルの大きな部分を占めることが知られている。SOAは大気に放出された後、エイジングにより物理・化学的特性が変化し気候への影響が変化することが示唆されている。有機過酸化物ROOHはSOAの60%を占めていることが知られており、植物由来の揮発性有機化合物(BVOC)のオゾン酸化により生成するクリーギー中間体の反応はSOA中のROOHの主な生成経路として知られている。ROOHの中でも、クリーギー中間体と水が反応したα-ヒドロキシヒドロペルオキシド(α-HH )と、アルコールと反応してできるα-アルコキシヒドロペルオキシド(α-AH)の2種類が存在する。α-HHは水の存在下で非常に速く分解することが報告され注目を集めている。一方で、このα-AHについてもα-HH同様、水存在下で速い分解をしている可能性がある。そこで本研究ではBVOCの一つであるα-テルピネオールのオゾン酸化で生成するクリーギー中間体とブタンジオールの反応で生成するα-AHの分解を測定し、その分解反応機構の解明を目的とした。
[実験]
α-AHは、水と1,2-ブタンジオールを体積比1:1で混ぜた溶液中でのα-テルピネオールのオゾン酸化により合成し、その経時変化をエレクトロスプレー質量分析法で経時変化を測定した。溶液には塩化ナトリウムを添加し、ROOHを負イオンの塩化物イオン付加体として検出した。塩酸の添加量を変化させることでpH依存性を調べた。また、温度を変化させることで活性化エネルギーを導出した。更に、1,2-ブタンジオールと水酸基の付く位置が異なる1,3-ブタンジオールと1,4-ブタンジオールを用いた実験を行い、結果の比較を行った。
[結果]
1,2-ブタンジオールの系で生成したα-AHの分解反応速度係数kは、pHが減少するほど、kの値は指数関数的に増加することが明らかになった。実験結果を外挿すると、実際の大気中のエアロゾル(pH1-2)では、kdecay=0.4 – 3.9 s-1 であることがわかった。このことは、α-テルピネオールと1,2-ブタンジオール由来のα-AHのエアロゾル中での寿命は数秒程度しかなく、フィールド観測で測定すること極めて困難であることを示唆している。この三つの系でα-AHの分解反応の活性化エネルギーは、1,2-ブタンジオールで12.5 ±0.9 kcal/mol、1,3-ブタンジオールで9.3 ± 2.3 kcal/molと1,4-ブタンジオールで10.0 ± 1.0 kcal/mol と導出された。また、ブタンジオールを使った系は、先行研究のプロパノールやエタノールの炭素鎖の短い一価アルコールよりも、一般的にα-AH分解反応の活性化エネルギーが低い、つまり分解反応が進行しやすく、反応速度が速いことがわかった。この反応速度には少なくともアルコールの炭素数2〜4の間では反応速度を向上させる原因として、アルキル基よりも水酸基の影響力が大きいことが初めて示唆された。本研究より、α-HH同様α-AHについてもその速い分解がエアロゾルの物理・化学特性にどのように影響を与えるか調査が必要である。
参考文献
・Hu et al., Environ. Sci.: Atmos., 2022, DOI: 10.1039/d1ea00076d.
・Hu et al., Phys. Chem. Chem. Phys., 2021, 23, 4605-4614.
・Enami, J. Phys. Chem. A., 2021, 125, 4513-4523.
気候変動や地球温暖化のメカニズムを考察する上で、大気中のエアロゾルは重要な要素である。植物由来の二次有機エアロゾル(SOA)は大気エアロゾルの大きな部分を占めることが知られている。SOAは大気に放出された後、エイジングにより物理・化学的特性が変化し気候への影響が変化することが示唆されている。有機過酸化物ROOHはSOAの60%を占めていることが知られており、植物由来の揮発性有機化合物(BVOC)のオゾン酸化により生成するクリーギー中間体の反応はSOA中のROOHの主な生成経路として知られている。ROOHの中でも、クリーギー中間体と水が反応したα-ヒドロキシヒドロペルオキシド(α-HH )と、アルコールと反応してできるα-アルコキシヒドロペルオキシド(α-AH)の2種類が存在する。α-HHは水の存在下で非常に速く分解することが報告され注目を集めている。一方で、このα-AHについてもα-HH同様、水存在下で速い分解をしている可能性がある。そこで本研究ではBVOCの一つであるα-テルピネオールのオゾン酸化で生成するクリーギー中間体とブタンジオールの反応で生成するα-AHの分解を測定し、その分解反応機構の解明を目的とした。
[実験]
α-AHは、水と1,2-ブタンジオールを体積比1:1で混ぜた溶液中でのα-テルピネオールのオゾン酸化により合成し、その経時変化をエレクトロスプレー質量分析法で経時変化を測定した。溶液には塩化ナトリウムを添加し、ROOHを負イオンの塩化物イオン付加体として検出した。塩酸の添加量を変化させることでpH依存性を調べた。また、温度を変化させることで活性化エネルギーを導出した。更に、1,2-ブタンジオールと水酸基の付く位置が異なる1,3-ブタンジオールと1,4-ブタンジオールを用いた実験を行い、結果の比較を行った。
[結果]
1,2-ブタンジオールの系で生成したα-AHの分解反応速度係数kは、pHが減少するほど、kの値は指数関数的に増加することが明らかになった。実験結果を外挿すると、実際の大気中のエアロゾル(pH1-2)では、kdecay=0.4 – 3.9 s-1 であることがわかった。このことは、α-テルピネオールと1,2-ブタンジオール由来のα-AHのエアロゾル中での寿命は数秒程度しかなく、フィールド観測で測定すること極めて困難であることを示唆している。この三つの系でα-AHの分解反応の活性化エネルギーは、1,2-ブタンジオールで12.5 ±0.9 kcal/mol、1,3-ブタンジオールで9.3 ± 2.3 kcal/molと1,4-ブタンジオールで10.0 ± 1.0 kcal/mol と導出された。また、ブタンジオールを使った系は、先行研究のプロパノールやエタノールの炭素鎖の短い一価アルコールよりも、一般的にα-AH分解反応の活性化エネルギーが低い、つまり分解反応が進行しやすく、反応速度が速いことがわかった。この反応速度には少なくともアルコールの炭素数2〜4の間では反応速度を向上させる原因として、アルキル基よりも水酸基の影響力が大きいことが初めて示唆された。本研究より、α-HH同様α-AHについてもその速い分解がエアロゾルの物理・化学特性にどのように影響を与えるか調査が必要である。
参考文献
・Hu et al., Environ. Sci.: Atmos., 2022, DOI: 10.1039/d1ea00076d.
・Hu et al., Phys. Chem. Chem. Phys., 2021, 23, 4605-4614.
・Enami, J. Phys. Chem. A., 2021, 125, 4513-4523.