日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS11] 大気化学

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (8) (Ch.08)

コンビーナ:内田 里沙(一般財団法人 日本自動車研究所)、コンビーナ:坂本 陽介(京都大学大学院地球環境学堂)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)、コンビーナ:石戸谷 重之(産業技術総合研究所)、座長:内田 里沙(一般財団法人 日本自動車研究所)、坂本 陽介(京都大学大学院地球環境学堂)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)、石戸谷 重之(産業技術総合研究所)

11:00 〜 13:00

[AAS11-P17] 2021年「みらい」北極航海で観測された北極海上エアロゾル

*木名瀬 健1竹谷 文一1宮川 拓真1朱 春茂1滝川 雅之1、當房 豊2、高島 久洋3金谷 有剛1 (1.海洋研究開発機構、2.国立極地研究所、3.福岡大学)

キーワード:北極、エアロゾル、海上

気候変動問題は人類にとって最重要課題の一つである。特に北極域では急速な気温上昇が観測されており、1971~2017年の間に気温は2.7~3.1℃も上昇したことが報告されている(Box et al., 2019)。その影響は全球生態系などにも波及するとされており (Pecl et al., 2017)、北極気候変動過程の解明は重要である。エアロゾルは放射収支に影響し、さらに雲核形成のトリガーとなって雲の放射特性や寿命を変化することで気候変動に強く寄与する。しかし、北極エアロゾルの観測と理解はまだ不足しており、特に海上での観測は十分に行われていない。北極気候変動プロセスを詳細に理解するためには、北極エアロゾルの時空間分布や混合状態、他地域からの輸送量を把握し、モデルに反映していくことが必要である。我々のグループでは2021年に海洋地球研究船「みらい」の北極航海 (MR21-05C) において、エアロゾルの連続観測とサンプリングを実施した。本研究ではそこで観測されたエアロゾルの時空間分布と、混合状態の解析結果について紹介する。
本研究は2021年9~10月の期間に清水港から北緯75°付近までのアラスカ側海域で実施した (図(a)および(b)) 。我々のグループではBC (SP2 model D, Droplet Measurement Technologies (DMT) ) 、微小粒子粒径分布 (Nano Scan model 3910, TSI) 、粗大粒子粒径分布 (KR-12A, Rion) 、蛍光粒子 (WIBS-4A, DMT) 、CO (48i-TLE, Thermo Fisher Scientific)、O3 (model 205, 2B Technologies) の大気中濃度とエアロゾル消散係数の分光観測 (MAX-DOAS) を連続観測した。なお、蛍光粒子と粗大粒子観測は粒子の配管ロスを避けるために、装置をコンパスデッキ上に設置して観測を行った。さらに実験室内に2段式自動インパクター(AS-24W, Arios) を設置し、1~4時間ごとの電子顕微鏡分析用エアロゾルサンプリングも実施した。暴露部(コンパスデッキ)では石英繊維フィルターを取り付けた1段式インパクター (TE-231, Tisch Environmental) をHigh volume air sampler (120SL, 紀本電子工業) に設置してのエアロゾルサンプリングと、ポリカーボネートメンブランフィルターを使用した氷晶核能実験用のエアロゾルサンプリングを、約2日間隔で実施した。これらのサンプリングは風向風速計を取り付けたウィンドセレクターによりON/OFFを制御し、みらい排気による試料汚染を回避した。さらに、電子顕微鏡分析用のグリッドを取り付けた3段式インパクター (MPS-3, California measurement) での不定期サンプリング (1日1~4回) も実施した。
微小エアロゾル個数濃度やBCの空間分布は太平洋では比較的高濃度だったがベーリング海周辺から大きく減少し、北極海に入ると非常に低い濃度状態が続いた (図(a)および(b) ) 。しかし、数回の濃度上昇も観測されており、陸域からのBC輸送や海上での粒子成長などのエアロゾルイベントをとらえることができた。北極海上へのエアロゾル輸送の一例としては、モデル計算から森林火災由来の気塊を観測した可能性が示唆される試料で、森林火災由来の粒子であるTarballを検出した (図(c)) 。また、北極海上でのエアロゾル変質観測例では、粒子成長がみられた試料では硫酸エアロゾルの存在状態変化も観察できた。本発表ではこれらの観測概要と解析結果の一部について紹介する。

図. 全期間中に観測された (a) BC質量濃度および (b) 微小粒子(10~400nm)の個数濃度の空間分布。および、 (c) 試料から検出されたTarball粒子の透過型電子顕微鏡観察例。