日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC28] 雪氷学

2022年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:紺屋 恵子(海洋研究開発機構)、コンビーナ:石川 守(北海道大学)、砂子 宗次朗(防災科学技術研究所)、コンビーナ:舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学)、座長:石川 守(北海道大学)


14:45 〜 15:00

[ACC28-04] Sentinel-1衛星でとらえた南パタゴニア氷原の氷河流動速度の短期的変化

*伊藤 悠哉1古屋 正人2 (1.北海道大学大学院理学院自然史科学専攻、2.北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)


キーワード:南パタゴニア氷原、Sentinel-1衛星、氷河

はじめに

南パタゴニア氷原は、南半球では南極に次ぐ規模の氷河群であり、北半球のグリーンランド等と同様に氷河流出に伴う末端位置の後退や、表面標高の低下が起きている(Sakakibara and Sugiyama 2014)。氷河の後退や表面標高の低下により、氷河の質量は損失し、海水面上昇に寄与する。氷河の流出量は、氷河の厚さと流動速度で決まるが、流動速度自体が季節的に変化することはスイスアルプスの山岳氷河で1980年代に知られることとなったが、2000年代以降はグリーンランドなどでも観測されている。一方、南パタゴニア氷原の氷河の流動速度は、半年から数年単位での変化は調べられているが(Muto and Furuya 2013)、より高い時間分解能での流動速度の変化は分かっていない。そこで、本研究では回帰日数が12日であるSentinel-1B衛星の合成開口レーダ画像によって、流動速度の変化を調べた。

氷河の流動速度の季節変化は、一般的には春季から夏季に加速し、秋季や冬季に減速する。しかし、グリーンランドでは冬季や春季に加速する氷河も確認されている(Moon et al., 2014)。流動速度の季節変化が起きるのは、氷河底面での排水システムの時間変化による底面水圧が支配していると考えられているが、詳細は明らかにはなっていない。

データと方法

2018年1月~2021年4月の約3年間のSentinel-1Bの画像を入手し、時間の差が12日のペアでピクセルオフセット法を適用し、氷河が地形の勾配に沿って流動していると仮定して(Parallel flow近似)、図1に示した比較的規模の大きい7つの氷河(Occidental, Pio XI, Asia, Tyndall, Viedma, O’Higgins氷河, Amalia氷河)の流動速度の時空間変化を解析した。数値標高モデル(DEM)にはJAXAが提供しているAW3Dを用いた。

ピクセルオフセット法では、約500m×600m(412pixel×42pixel)の領域で、ステップ数は約90m×110m(40×8ピクセル)に設定した。

  解析した流動速度について、氷河周囲の岩の部分など変動がないと考えられる地域の値を調べたところ、10cm/day以下であった。よって、流動速度の測定誤差はこの範囲に含まれる値であるが、Parallel Flow近似の妥当性は三次元速度ベクトルを求めて比較する必要がある。

結果と考察
7つの氷河(Occidental, Pio XI, Asia, Tyndall, Viedma, O’Higgins氷河, Amalia氷河)すべてに有意な変化が見られた。その中でも、Pio XI氷河、Viedma氷河、O’Higgins氷河、Amalia氷河はそれぞれ冬季に400%、20%、30%、30%加速し、夏季に減速するWinter speed-up(Abe and Furuya, 2015)をしていることが分かった。またAsia氷河とOccidental氷河の下流部では、春季に15%と加速することが分かった。Tyndall氷河では明瞭な季節変化がみられなかった。
  Moon et al. (2014)や、Vijay et al. (2021)では、グリーンランドの氷河の流動速度の季節変化が年によって変わることを示している。今回調べた氷河がほかの年でどう変動しているか調べていく予定である。