日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC29] アイスコアと古環境モデリング

2022年5月26日(木) 09:00 〜 10:30 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、コンビーナ:竹内 望(千葉大学)、阿部 彩子(東京大学大気海洋研究所)、コンビーナ:植村 立(名古屋大学 環境学研究科)、座長:川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、竹内 望(千葉大学)

09:30 〜 09:45

[ACC29-03] 氷期の海洋炭素循環変動に対する南大洋の物理的・生物地球化学的過程の影響

★招待講演

*小林 英貴1岡 顕1山本 彬友2阿部 彩子1 (1.東京大学大気海洋研究所、2.国立研究開発法人海洋研究開発機構)

キーワード:海洋炭素循環、氷期/間氷期サイクル、南大洋、鉄肥沃化

氷床コアに含まれる気泡の分析から、過去 80 万年間の気温変動(氷期-間氷期サイクル)に伴い、大気中二酸化炭素濃度は変動しており、氷期には間氷期に比べて約 90 ppm 低いことが明らかにされている。この大気中二酸化炭素の変動は、主に海洋の炭素循環変動に起因すると認識されているが、過去のモデリング研究では変動の振幅を十分に説明できず、詳細なメカニズムは未解明である。本研究は、氷期の南大洋における物理的・生物地球化学的過程の変化に着目し、全球海洋炭素循環の変化に対する定量的な寄与を評価した。古海洋復元研究は、最終氷期最盛期(LGM: Last Glacial Maximum)の海洋深層が、現代と比べてより低温・高塩分な底層水で占められ、特に南大洋で非常に塩分が高いことを示唆している。また、LGM には地表面へのダスト沈着量が現代と比べて増加していることが氷床コア研究などから明らかにされている。近年のモデリング研究は、氷河性ダスト起源の溶解度が高い鉄の供給が、海洋の生物ポンプの効率を高めることで、海洋深層における炭素貯留の増加と溶存酸素濃度の低下をもたらすことを示している。本研究は、全球規模の三次元海洋大循環モデルを用いて、南大洋における強い塩分成層と、氷河性ダストによる鉄肥沃化を考慮した氷期気候下の数値実験を行った。これらの二つの過程を考慮すると、南大洋では亜南極域において生物生産が増加し、表層と深層との鉛直混合が弱化した。その結果、現代気候下で行った実験と比較し、海洋深層が低い酸素、軽い安定炭素同位体比、古い放射性炭素年代をもつ海水で占められた。この傾向は従来の実験と比べてより顕著になり、氷期の深層水特性が古海洋堆積物記録と整合して再現されることが明らかになった。さらに、このような南大洋の変化は、海洋表層と深層との溶存無機炭素濃度の鉛直勾配を増加させていた。これは、炭酸塩堆積物の堆積・溶解フィードバックである炭酸塩補償による海洋アルカリ度の増加をもたらし、海洋への炭素貯留がさらに増加する結果となった。その結果、本研究の数値実験は、大気中二酸化炭素の現実的な変化(約 77 ppm)を再現できることがわかった。本研究の結果は、LGMにおける大気中二酸化炭素濃度を再現するうえで南大洋が重要となることを明らかにし、氷期-間氷期スケールの海洋炭素循環の変動メカニズムの理解に貢献した。