日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC29] アイスコアと古環境モデリング

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (9) (Ch.09)

コンビーナ:川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、コンビーナ:竹内 望(千葉大学)、阿部 彩子(東京大学大気海洋研究所)、コンビーナ:植村 立(名古屋大学 環境学研究科)、座長:植村 立(名古屋大学 環境学研究科)、川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)

11:00 〜 13:00

[ACC29-P04] グリーンランドSIGMA-Aアイスコアにおける近赤外反射率の測定

*松本 真依1,2飯塚 芳徳1、斎藤 健1藤田 耕史3青木 輝夫4 (1.北海道大学低温科学研究所、2.北海道大学大学院環境科学院、3.名古屋大学大学院環境学研究科、4.国立極地研究所)


キーワード:グリーンランド、アイスコア、近赤外反射率

積雪粒子の比表面積 (単位体積あたりに含まれる積雪粒子の表面積) は, 積雪粒子の粒形や形状に依存することから, 積雪の微細構造を決定するパラメータとなる1). 比表面積の測定にはいくつかの手法が存在するが, 近赤外反射率を用いる方法はアイスコアのような大量の試料の測定に適している.
2017年にグリーンランド北西部SIGMA-A地点 (78°03’06”N, 67°37’42”W, 1490 m a.s.l) 2) においてアイスコアが掘削された. SIGMA-Aアイスコアは, 全長約61 m, 1903年までの環境復元ができる. また, 融解再凍結を経て形成された厚さ1mm以上の氷板が243層 (平均14 mm) 存在する3). 本研究ではSIGMA-Aアイスコアの近赤外反射率を測定した.
測定に用いた近赤外反射率測定装置は, -20℃の低温室内に, 内部壁面を白いボードで囲まれた2.4×1.8×2.0 (m) の暗室に設置されている. 暗室の天井に近赤外線撮影カメラ (Nikon D7000) を取り付け, 長さ1.5 mのアイスコア台が視野の中心になるよう設置した. 近赤外線撮影カメラは内蔵の近赤外除去フィルターを取り除いた上で, 850 nm以下の波長を取り除くフィルターを取り付けている. アイスコア台を挟むように設置された4台の近赤外光源 (S8100 Energy Power;波長 850 nm) から近赤外光を暗室壁面に向かって照射し, その散乱光によりアイスコア台に均質に光が当たるようにした. 撮影や画像の取り込みはNikon Camera Control Pro2を用いて, PCから無線で制御できる. 撮影したRAWファイル形式の画像をImageJソフトで取り込み, ソフトのDCRraw Readerを用い, 長さ80 ㎝に相当する約4000ピクセルの1次元輝度強度データを取得した. 反射率が既知の4種類の標準反射板 (Tokyo Instruments, Inc.;Zenith Lite) と補正用のボード(パネルデポ;ニューカラーボード)を近赤外カメラで反射光を撮影し, ピクセル強度と反射率の関係式を取得した. その後, ミクロトームで表面研磨したアイスコアを, 標準反射板と同位置で撮影し, 線形近似でアイスコアの近赤外反射率を求めた.
その結果, 表面雪, 氷化深度付近のフィルンの近赤外反射率がそれぞれ70%, 40%と先行研究 4) より高い反射率となった. 他方で, 243層みられた氷板の反射率は20%と先行研究とほぼ同じ値であった. ルーペで測定した表面雪の積雪粒径 (測定数n) は平均2.1 mm (n=30) であり, 青木(2009)5)によれば, 850nmの波長での反射率は約70%であるので, 本研究の近赤外反射率の反射率は妥当な値であると考えられる.
[参考文献]
1) Matzl & Schneebeli, 2006: Journal of Glaciology, 52(179), 558-564.
2) Matoba et al., 2018: Bulletin of Glaciological Research, 36, 15-22.
3)Kawakami et al., 2020: Summaries of JSSI & JSSE Join Conference on Snow and Ice Research-2020 online, 33.
4)Ando et al., 2018: Summaries of JSSI & JSSE Join Conference on Snow and Ice Research, 65.
5)青木, 2009:天気, 56, 1, 5-16.