11:00 〜 13:00
[ACG33-P03] 災害級の冷夏が近年発生していない理由とは?
キーワード:冷夏、高気圧化、海面水温
日本の中でも主要な稲作地域である北日本は,度々発生する冷夏によって凶作に見舞われるなどの被害を受けてきた.例えば,1993年の大冷夏時には,当時のコメの需要に対し収穫量が大幅に不足し,海外からコメを緊急輸入する事態に陥った.このような“災害級の冷夏”が発生する一因として,オホーツク海高気圧の存在が知られている.この他,日本の夏に影響を及ぼす海洋現象としてエルニーニョ・ラニーニャ現象,またこれと関係がある気圧配置パターンとして,太平洋-日本(Pacific-Japan,PJ)パターンがある.エルニーニョ現象,負のPJパターンの場合に日本は冷夏となる.
こういった事実が先の研究により知られている一方,近年は農業に影響を及ぼすような冷夏は発生していないという事実もある.この理由を統計的に調べ,考察を行った先行研究は存在しない.そこで本研究ではこの理由解明を目的とする.
大気場のデータにはJRA-55を,海面水温(SST)データにはHadISSTを使用した.いずれも7月の月平均データを,1958-2020年の63年分使用し,これを気候値と定義した.近年・冷夏年の指標には,北海道,東北六県,新潟の気象官署40地点の平均気温データを使用した.北日本気温インデックスを作成し,値が-0.5σ以下であった15事例を“冷夏年”,2010-2020年までを“近年”と定義した.
近年・冷夏年の大気海洋場の特徴を調べるために,合成図解析を行い,SST,大気下層(975hPa面)・上層(250hPa面)の高度場について,気候値と比べてどのような特徴が見られるかを調べた.さらに,冷夏年の特徴を表す各種インデックスを作成し,近年冷夏が発生していない理由の考察を行った.
近年の合成図解析の結果,SSTは日本周辺や北太平洋東部,西部熱帯域で有意な高水温偏差となっていた.大気下層の高度場おいては,日本周辺および,北太平洋東部に有意な高気圧偏差が見られた.オホーツク海,フィリピン海付近に有意な差は見られなかった.大気上層の高度場においては,カムチャツカ半島~北太平洋東部を中心に,日本を含む広域で有意な高気圧偏差が見られた.
冷夏年の合成図解析の結果,SSTは日本周辺~北太平洋中央部にかけて低水温偏差となっていた.大気下層の高度場においては,負のPJパターンと同様の気圧偏差,オホーツク海高気圧と見られる高気圧偏差も見られた.大気上層の高度場においては,日本を含む極東アジアの広域で低気圧偏差,その南で高気圧偏差と,南北のダイポール構造が見られた.
冷夏年の特徴を表す各種インデックスを作成し,SST,オホーツク海高気圧およびPJパターンの発生,日本付近の下層・上層の高度場について,近年の様子を1年ごとに確かめた.まず,近年のSSTは,2015年以外の全ての年で高水温偏差であった.一方,オホーツク海高気圧はほとんどの年で発生しており,近年も冷夏年と同様の特徴が現れていることが分かった.それにも関わらず,冷夏が発生していない理由として,日本付近のSST上昇が影響していると考えられる.やませのような北東風が吹いた場合でも,近年は海によって温められた相対的に“暖かいやませ”となっている可能性がある.また,近年は負のPJパターンが発生した年が無く,正のPJパターンについても,ほとんど発生していないことが分かった.これは,熱帯域の海洋現象の影響を近年受けにくくなっている可能性を示唆している.また,日本付近の大気下層~上層にかけては,近年高気圧化していることが分かった.これにより,フィリピン海付近の影響が上層を介して日本付近に及びにくくなり,このために負のPJパターンが発生していないと考えられる.また,大気上層の高・低気圧偏差は,偏西風の蛇行と関係していることから,この結果は,近年偏西風の蛇行パターンが変化している可能性を示唆していると考えられる.
こういった事実が先の研究により知られている一方,近年は農業に影響を及ぼすような冷夏は発生していないという事実もある.この理由を統計的に調べ,考察を行った先行研究は存在しない.そこで本研究ではこの理由解明を目的とする.
大気場のデータにはJRA-55を,海面水温(SST)データにはHadISSTを使用した.いずれも7月の月平均データを,1958-2020年の63年分使用し,これを気候値と定義した.近年・冷夏年の指標には,北海道,東北六県,新潟の気象官署40地点の平均気温データを使用した.北日本気温インデックスを作成し,値が-0.5σ以下であった15事例を“冷夏年”,2010-2020年までを“近年”と定義した.
近年・冷夏年の大気海洋場の特徴を調べるために,合成図解析を行い,SST,大気下層(975hPa面)・上層(250hPa面)の高度場について,気候値と比べてどのような特徴が見られるかを調べた.さらに,冷夏年の特徴を表す各種インデックスを作成し,近年冷夏が発生していない理由の考察を行った.
近年の合成図解析の結果,SSTは日本周辺や北太平洋東部,西部熱帯域で有意な高水温偏差となっていた.大気下層の高度場おいては,日本周辺および,北太平洋東部に有意な高気圧偏差が見られた.オホーツク海,フィリピン海付近に有意な差は見られなかった.大気上層の高度場においては,カムチャツカ半島~北太平洋東部を中心に,日本を含む広域で有意な高気圧偏差が見られた.
冷夏年の合成図解析の結果,SSTは日本周辺~北太平洋中央部にかけて低水温偏差となっていた.大気下層の高度場においては,負のPJパターンと同様の気圧偏差,オホーツク海高気圧と見られる高気圧偏差も見られた.大気上層の高度場においては,日本を含む極東アジアの広域で低気圧偏差,その南で高気圧偏差と,南北のダイポール構造が見られた.
冷夏年の特徴を表す各種インデックスを作成し,SST,オホーツク海高気圧およびPJパターンの発生,日本付近の下層・上層の高度場について,近年の様子を1年ごとに確かめた.まず,近年のSSTは,2015年以外の全ての年で高水温偏差であった.一方,オホーツク海高気圧はほとんどの年で発生しており,近年も冷夏年と同様の特徴が現れていることが分かった.それにも関わらず,冷夏が発生していない理由として,日本付近のSST上昇が影響していると考えられる.やませのような北東風が吹いた場合でも,近年は海によって温められた相対的に“暖かいやませ”となっている可能性がある.また,近年は負のPJパターンが発生した年が無く,正のPJパターンについても,ほとんど発生していないことが分かった.これは,熱帯域の海洋現象の影響を近年受けにくくなっている可能性を示唆している.また,日本付近の大気下層~上層にかけては,近年高気圧化していることが分かった.これにより,フィリピン海付近の影響が上層を介して日本付近に及びにくくなり,このために負のPJパターンが発生していないと考えられる.また,大気上層の高・低気圧偏差は,偏西風の蛇行と関係していることから,この結果は,近年偏西風の蛇行パターンが変化している可能性を示唆していると考えられる.