日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG33] 中緯度大気海洋相互作用

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (10) (Ch.10)

コンビーナ:木戸 晶一郎(海洋開発研究機構 付加価値創生部門 アプリケーションラボ)、コンビーナ:関澤 偲温(東京大学先端科学技術研究センター)、桂 将太(カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋研究所)、コンビーナ:安藤 雄太(新潟大学理学部)、座長:木戸 晶一郎(海洋開発研究機構 付加価値創生部門 アプリケーションラボ)、関澤 偲温(東京大学先端科学技術研究センター)、桂 将太(カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋研究所)、安藤 雄太(新潟大学理学部)

11:00 〜 13:00

[ACG33-P10] 黒潮大蛇行が及ぼす海上の落雷分布の変化

*加藤 実紗1立花 義裕1安藤 雄太2、佐藤 敬子3、重田 絵里奈3 (1.三重大学 生物資源学部、2.新潟大学 理学部、3.株式会社フランクリン・ジャパン)


キーワード:落雷、黒潮大蛇行

日本の落雷の先行研究はほとんどが事例解析であり,今まで気候学的な視点で研究が行われた例は少ない.さらにその対象は陸上で発生したものであり,海上で発生した落雷について述べたものはごくわずかである.その一つであるIwasaki(2014)は2009~2012年の平均的落雷分布を示した.ただしこの研究は長期変化は調べられていない.近年は黒潮大蛇行が発生しており,それに伴った海面水温の変動が大気に影響を及ぼす.また,大蛇行時に発生する冷水塊,暖水塊は沿岸部の異常気象の一因となることが指摘されている.これらの先行研究から黒潮大蛇行は落雷分布に影響すると予想される.しかし,黒潮大蛇行が落雷に及ぼす影響を検証したものは存在しない.そこで本研究では,日本周辺の海上の落雷について黒潮大蛇行に着目し,大蛇行が起こることで落雷分布にどのような変化があるか考察した.日本周辺での雷データとして,株式会社フランクリン・ジャパンからご提供いただいた高解像度の月平均落雷数データを使用した.本研究では,2011~2016年を非大蛇行期間,2018~2020年を大蛇行期間として,それぞれの変数において大蛇行時と非大蛇行時の比,年平均の差を計算した.また大蛇行,非大蛇行期間において全領域,暖水塊,冷水塊それぞれの領域で平均した変数の月推移を考察した.
大蛇行,非大蛇行時の落雷分布の比を見ると,大蛇行時は非大蛇行時と比べ暖水塊の海域で落雷数が約5倍以上増加,冷水塊で約2分の1以下に減少していることがわかった.また,他の変数の差を見るとほぼ全ての変数で暖水塊の海域で上昇,冷水塊で低下が見られたが,降水量は明瞭な差が見られなかった.大蛇行,非大蛇行時の落雷数の月推移を見ると全領域では,大蛇行時に非大蛇行時と比べ夏に落雷数が多くなり,冬はほぼ同程度であった.暖水塊では,大蛇行時で10月に約15倍の増加が見られた.年平均の結果を考慮すると,冷水塊では大蛇行時は落雷数が少なくなるはずだが9,10,11月には多くなった.陸上の落雷数は降水量とCAPEの積に比例するが,大蛇行時と非大蛇行時の降水量×CAPEの比は落雷数の結果と比べ異なった.特に暖水塊ではその違いが顕著であり,陸上とは異なる落雷の発生環境が存在する可能性がある.
 本研究では,黒潮大蛇行が暖水塊,冷水塊の落雷数をそれぞれ増加,減少させる可能性を示した.その原因は以下のように考察できる.暖水塊では海面水温,地上気温が上昇し風速が強くなることにより海から大気への熱,水蒸気輸送が活発となる.この結果上昇気流が強化され,落雷が発生しやすい環境場になったと考えられる.冷水塊ではその逆のプロセスをたどる.また,暖水塊と冷水塊では大蛇行と非大蛇行の比が落雷数と降水量×CAPEで一致しないことにより,海上の落雷の発生原理を理解する重要性を示した.