日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG38] 衛星による地球環境観測

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (11) (Ch.11)

コンビーナ:沖 理子(宇宙航空研究開発機構)、コンビーナ:本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、高薮 縁(東京大学 大気海洋研究所)、コンビーナ:松永 恒雄(国立環境研究所地球環境研究センター/衛星観測センター)、座長:本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、高薮 縁(東京大学 大気海洋研究所)、松永 恒雄(国立環境研究所地球環境研究センター/衛星観測センター)

11:00 〜 13:00

[ACG38-P09] GSMaPにおける雲移動ベクトル高分解能化の検討

*阪本 晴香1妻鹿 友昭1林 修吾2和田 有希1牛尾 知雄1 (1.大阪大学、2.気象研究所)


キーワード:GSMaP、雲移動ベクトル、ひまわり8号

Global Satellite Mapping of Precipitation (GSMaP) は,JAXAによって全球領域 (60°??~60°??) で提供されている,緯度経度0.1°格子,1時間間隔の全球降水マップである.今日,気候変動の影響で,台風や集中豪雨による災害が世界的に多発しており,気象観測網が発達していない地域において,GSMaPに対する防災分野でのニーズが高まっている.これらの気象現象は短時間で局地的に変化するため,時間的・空間的により高分解能な推定がGSMaPに求められる.
GSMaPの時空間分解能を向上させるためには,降雨域の移動を推測する際に用いられる雲移動ベクトルの分解能向上が必要となる.なぜなら,低軌道衛星搭載のマイクロ波放射計では,全球の観測が不可能となっており,未観測領域の降雨を補完するために雲移動ベクトルが用いられているからである.雲移動ベクトルは, 1時間間隔・格子間隔2.5°でパターンマッチングによって導出された後,0.1°間隔に内挿したものが用いられている.この雲移動ベクトルを高分解能化することで,従来のものでは観測できなかったより詳細な雲の動きを捉えられ,より高精度な降雨域の移動推定が可能になる.
 2014 年に打ち上げられたひまわり8 号からは,10 分間隔で高分解能な赤外輝度温度データが取得可能となった.そこで本研究では,ひまわり8号の高分解能データを使用し,より細かい格子間隔で10分ごとの高分解能雲移動ベクトルを導出した.そして局地数値予報モデルGPV (LFM) に含まれる風速の初期時刻データとの比較を行い,相関係数,RMSEを東西および南北成分のそれぞれで計算することで,雲移動ベクトルの精度を検証した.
 現在のGSMaP で用いられている雲移動ベクトルでは,相関係数,RMSEが東西成分でそれぞれ0.48,10 m/s,南北成分で0.16,14 m/sであった.これに対し, 0.6°~2.5°の格子間隔を用いて10分間隔で導出した場合,相関係数,RMSEが東西成分でそれぞれ0.77~0.85,8.2 ~6.1 m/s,南北成分で0.64 ~0.70,12~10 m/sという結果が得られた.いずれの格子間隔においても現在のGSMaPよりも精度良い結果が得られたが,特に格子間隔が2.1°の時に相関係数が最大値0.85,RMSEが最小値6.1 m/sとなった.また,雲移動ベクトルの精度が低い領域の雲を調査した結果,1つの格子内において,複数の高度に雲が存在しているという特徴があった.加えて,雲移動ベクトル導出格子間隔を変更した結果, 0.6°~2.0°間隔で導出した場合,2.5°間隔に比べて局地的に発生する雨雲の動きを捉えられていたことを確認できた.特に0.6°で導出した場合,雲の発生から発達までの動きを細かく捉えられていた.雲が大きく発達した後,移動する段階においては,0.6°~2.0°のどの格子間隔でも正しく移動を導出できていた.これより,時間・空間分解能を向上させることで,現在のGSMaPよりも精度良い雲移動ベクトルが得られることがわかった.