日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG40] 沿岸海洋生態系─2.サンゴ礁・藻場・マングローブ

2022年5月27日(金) 15:30 〜 17:00 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:梅澤 有(東京農工大学)、コンビーナ:樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)、中村 隆志(東京工業大学 環境・社会理工学院)、コンビーナ:渡辺 謙太(港湾空港技術研究所)、座長:梅澤 有(東京農工大学)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)、中村 隆志(東京工業大学 環境・社会理工学院)、渡辺 謙太(港湾空港技術研究所)

16:45 〜 17:00

[ACG40-11] 13C標識法による部位別測定を用いたガラモ場の生産量評価

*宮田 達1梅澤 有1井田 拓成1渡辺 謙太2、梶田 淳3、真鍋 康司3、桑江 朝比呂2 (1.東京農工大学、2.港湾空港技術研究所 、3.水圏リサーチ株式会社)


キーワード:ガラモ場、13C標識法、年間生産量、部位別測定

【はじめに】
 藻場は日本の沿岸域において代表的な生態系であり,重要な機能を多く有している.その機能の一つに炭素貯蔵機能があり,大気中の二酸化炭素削減策としての利用が期待されている.藻場が分布する沿岸域において,炭素貯蔵の起点となる炭素吸収量は,藻場の総生産量と等しい値を示すが,現在,正確な総生産量は把握できていない.一般的な藻場の生産量測定手法である現存量法による測定値は1か月程度の長期間の純生産量の積算値であるのに対して,13C標識法は,海洋において一時的でも吸収された炭素量を示す総生産量に近い値を定量できる.一方,13C標識法の課題は,炭素貯蔵量の試算に必要な藻場全体の長期的な生産量は直接測定できない点である.そのため,13C標識法を利用して藻場全体の年間生産量を概算するためには,光条件別に測定した生産量の値と,生産量を測定していない期間の光量の連続測定値から,長期間の生産量を推定することが有効であると考えられる.また,13C標識法のような,藻体の一部を使用した生産量測定では,成長部の生産量しか測定されないことが多く,その値を用いて個体全体や群集全体の生産量を換算すると,部位毎の生産量の違いにより過大評価になる可能性がある.従って,本研究では,ホンダワラ科の海藻群落(ガラモ場)を構成する代表的な大型褐藻類の生産量を,13C標識法により光条件別・部位別に測定することで,調査藻場全体の生産量を評価することを目的とした.
【試料・方法】
 本研究では,瀬戸内海の伊予灘北部に位置する山口県平郡島の周辺海域に生息するガラモ場にて調査を行った.調査地では水質データとして水温,塩分,栄養塩濃度,DIC濃度の測定の他,藻場の優占4種(アカモク,ジョロモク,ノコギリモク,ヤツマタモク)の現存量と,3種(2019年度;アカモク,ジョロモク,2021年度;ジョロモク,ノコギリモク)の生産量を測定した.現存量は2019年度9,10,12,1月に,藻場内の被度が100%である5地点において,0.5 × 0.5 mコドラート内の海藻を刈り取り,種別に湿重量を測定して求めた.生産量は2019年度9,12,1月,2021年9,10月に,10時~15時の間で13C標識法により測定した.2019年度は生産量測定用の試料として成長部(葉部+茎部)を使用し,2021年は藻体を葉部,茎部,越年部に切り分けて測定用試料とした.また, 2021年9月,10月の調査では,2種の光条件(自然光,弱光)を用意して生産量を測定した.2021年の調査では,ジョロモクとノコギリモクを切り分け,1個体当たりの部位別の重量割合を測定した.
【結果・考察】
 本研究では,2021年の調査において測定した部位別の生産量と,藻体の部位別の湿重量割合から,藻体全体の単位重量当たりの平均生産量を加重平均により求めた.その加重平均と2019年度に測定したジョロモクの成長部の生産量,2021年に測定したジョロモクの葉部の生産量を比較すると,ジョロモクの葉部の生産量が最も高く,他の2つの部位の生産量の2~3倍となった.今回の結果では,成長部(葉部+茎部)と部位別測定から求めた藻体全体の生産量に差異はなかった.しかし,ジョロモクは葉部と茎部で生産量に約3倍の違いがあるため,成長部を用いた実験では,季節や個体によって葉部と茎部の割合が異なる場合,生産量を正しく評価できない可能性が示唆された.
 2019年度の調査藻場はジョロモクが優占しており,9月から12月までは,現存量を測定した4種のうち93%~98%を占めていた.ジョロモクの成長期は9月から1月であることから,藻場全体の生産量は9月から1月のジョロモクの生産量に近似できる.そのため,現場海域において5時間の大型褐藻類の生産量を測定した結果から,光量子量や現存量などのデータを外挿し,2019年度における調査藻場の単位面積当たりの年間生産量を試算した. 2019年度の調査藻場における年間生産量は1.65×106 mgC/m2となり,いくつかの課題点はあるが,13C標識法による生産量測定から藻場全体の生産量を求めることができた.この値は,総生産量に近い値であり,本研究手法を用いた調査研究を積み上げていけば,沿岸域における炭素吸収量を正確に評価していくことが可能である.また,ある藻場で今回と同様に生産量を測定した場合,その結果を用いて,同じような優占種と環境条件下にある他の藻場の生産量は,現存量測定のみから推定できることからも,本研究手法が有用であると言える.