日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 沿岸海洋⽣態系─1.⽔循環と陸海相互作⽤

2022年5月27日(金) 09:00 〜 10:30 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、コンビーナ:山田 誠(龍谷大学経済学部)、藤井 賢彦(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、コンビーナ:小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、座長:山田 誠(龍谷大学経済学部)、小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)

09:05 〜 09:30

[ACG42-01] アマモ場、海藻藻場の分布域の全国推定と陸域とのつながり:社会経済・気候シナリオ、小流域、流域内の土地利用変化

★招待講演

*山北 剛久1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構)

キーワード:河川流域、沿岸環境管理、地理情報システム、リモートセンシング、生態系サービス

陸域と沿岸生態系とのつながりについては、すでに多くの検討がなされているが、広域スケールでの検討とローカルな検討とをつなげたものは少ない。そこで我々がこれまでに実施した3件の研究をレビューする形で紹介し、研究の方向性について検討したい。
1つ目は大流域のみを考慮した4つの将来シナリオによる沿岸域変化の検討(Kumagai et al. 2021)。
2つ目は小流域周辺の藻場が流域の土地利用変化に相対的な影響を受けやすいと考え、小流域と大流域を分けて比較した沿岸生態系の分布の推定(Yamakita Taki Okabe in prep)。
3つ目はこうした流域単位の変化についてのプロセスモデリングの検討(Yamaktia and Imaki 2019; Yamakita et al. 未発表)である。

1つ目については、まず、全国のアマモ場および海藻藻場の分布面積を応答変数として、海水温、海岸長、クロロフィル a、農地比率、波あたり、潮汐サイズ、シナリオに基づく人口と水質を説明変数とする勾配ブースティング法による機械学習のモデルを作成した。そして、あらかじめ作成された全国の社会経済に関する4つのシナリオについて(Saito et al. 2019; Saito et al. 2019)、特に、全国の人口と土地利用変化に基づいて(Syoyama et al 2019; Hori et al 2019)、河口域の水質を機械学習によって予測した。その結果に基づき、水質の将来の予測を全国に内挿したデータを作成した。また、気候変動のデータについても用意した。
その結果、気候変動を伴わないと、人工資本利用型かつ人口分散型社会のシナリオで現在の藻場が残る一方で、自然資本活用型かつ人口集中型社会のシナリオでは、おそらく地方の人口減少による栄養塩の減少によって、主に北海道の藻場が減少する推定が得られた。この差は現在の藻場面積の推定とくらべて2%程度であり、気候変動も考慮すると、さらに3%程度面積が低下する可能性が示された。地域的な傾向を検討するために結果を地図上に落とすと、北海道東部で現在アマモ場が高密度に分布する地域の変化が大きく、面積の値はモデルの推定範囲の縁であるため、モデルでは明示されないが推定の幅が大きいと考えられる領域であった。そのため全国的なシナリオごとの影響の程度を比較することには適した結果が得られた半面、個別の地域ごとにモデルの推定幅も含めた検討の必要性も示した。

2つ目について、流域の影響について、上記で考慮できなかった小流域も含めるため、大流域と小流域に分けて、それぞれについて、河口または海岸線からの一定距離に分布する、アマモ場および海藻藻場の分布グリッド数を応答変数として、GLMおよびGAMによる推定を行った。説明変数は陸域のドライバー(降水量、森林・農地の比率、流域面積)と海域のドライバー(風波、水深勾配、水質)とした。その結果、大流域(10,000km2以上)を考慮した推定の場合はアマモ場の分布の分散の70%以上が海域ドライバーで説明されたが、小流域(10,000km2未満)を考慮した推定の場合は陸域のドライバーが寄与することが示された。小流域では、特に森林率がアマモ場のグリッド数に正の影響を及ぼした。このことから、陸域からの流入は水生植生に直接影響を与えるが、流域面積を考慮することが重要であることが示唆された。一方で、海藻については海水温の影響がとびぬけて強かった。

3つ目に、個別の流域単位の時間変化の検討について、陸域からの流出について土壌重出量及びそのポテンシャルをシンプルに推定する例を紹介する。ここでは米国農務省で開発された、Universal Soil Loss Equation(USLE)モデルを用いて変化比較を行い、東北の太平洋側沿岸流域での検討例を紹介する。まず、河川のデータを地形から作成するために、10mのDEMからWhiteboxGATを用いて河川データを新たに作成した(Yamakita and Imaki 2019)。このGISデータをベースに、USLEによる土砂流出に必要な以下の係数、R:降雨係数。(降雨の侵食エネルギー)と、K:土壌係数。(土壌の流れ易さ)、L ・S:地形係数、C:作物係数、P:保全管理係数 から、通常用いられる作物管理係数、保全係数を使用する代わりに、NDVIを用いる簡便な方法を使用した。その結果、潜在土壌流出量と、土壌流出量が算出され、どのような土地利用変化が、沿岸域でどのくらい影響を及ぼすのかが明らかになる。これについて、地形図にない小規模な流域や雨水なども考慮できるであろうおよそ30mの解像度で、2011年の東日本大震災前後のGoogleEarthEngineから算出したNDVIの変化による変化を推定した結果について発表では示したい。

これらを通じて、沿岸環境への陸域の変化の影響の検討についての、広域スケールからのアプローチの可能性と個別の地域での検討との連携した取り組みについて議論したい。



参考文献
Kumagai, J., Wakamatsu, M., Hashimoto, S., Saito, O., Yoshida, T., Yamakita, T., et al. (2021). Natural capitals for nature’s contributions to people: the case of Japan. Sustain. Sci. https://doi.org/10.1007/s11625-020-00891-x
Saito, O., Kamiyama, C., Hashimoto, S., Matsui, T., Shoyama, K., Kabaya, K., et al. (2019). Co-design of national-scale future scenarios in Japan to predict and assess natural capital and ecosystem services. Sustain. Sci. 14, 5–21.
Saito, O., Hashimoto, S., Managi, S., Aiba, M., Yamakita, T., DasGupta, R., et al. (2019). Future scenarios for socio-ecological production landscape and seascape. Sustain. Sci. 14, 1–4.
Shoyama, K., Matsui, T., Hashimoto, S., Kabaya, K., Oono, A., and Saito, O. (2019). Development of land-use scenarios using vegetation inventories in Japan. Sustain. Sci. 14, 39–52.
Hori, K., Kamiyama, C., and Saito, O. (2019). Exploring the relationship between ecosystems and human well-being by understanding the preferences for natural capital-based and produced capital-based ecosystem services. Sustain. Sci. 14, 107–118.
Yamakita, T., and Imaki, H. (2019). Fine resolution basin database using 10m DEM at the area along Sanriku coast of Japan. JAMSTEC Rep. Res. Dev. 28, 54-60. https://doi.org/10.5918/jamstecr.28.54