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[ACG42-04] M-AMBI評価に基づいた瀬戸内海における陸域負荷削減に伴う海底環境の応答
キーワード:瀬戸内海、M-AMBI、生物指数、底質環境
昭和40年代以降、瀬戸内海を含む閉鎖性海域では広い範囲で赤潮が頻発するなど水質汚濁の進行が顕著であった。その改善のために導入された瀬戸内海環境保全特別措置法に基づく水質総量規制によって瀬戸内海への窒素およびリンの陸域負荷は1980年代と比較してそれぞれ40%、61%減少し、沿岸部では一次生産の低下も報告されている(西嶋 2018)。水質改善に伴う底質の物理化学的特性やベントス群集構造の変化について、それらの関係性はどのようになっているのか、これまでの富栄養化過程とは逆方向の変化による環境応答について明らかにする必要がある。そこで本研究では、環境省が実施した述べ1,600地点以上のマクロデータから瀬戸内海における底質環境の長期変化の概要把握を試みた。
瀬戸内海では、1980年から約10年に1度、400地点程度の底質・ベントスの一斉調査(第1回〜第4回瀬戸内海環境情報基本調査)が実施されており、それらの膨大な底質の物理化学的特性項目(TOC含量、粒度等)とマクロベントスの個体密度データを解析に用いた。なお、1980年代のベントスデータは使用していない。解析にはAMBI software version 5.0を使用し、各地点におけるAZTI Marine Biotic Index(AMBI)値を算出した(Borja et al. 2000)。AMBI値は、定義された生態学的グループ(GⅠ〜Ⅴ)を構成種ごとに当てはめ、それらの組成に基づいて算出される。同解析ソフトを使用し、種数、Shannon index(H’)、およびAMBI値の因子分析により計算される総合的な生物指数であるM-AMBI値を算出した(Muxika et al. 2007)。1980年代の夏季クロロフィルa(Chl.a)濃度を用いて瀬戸内海全域を5つの海域に区分し(≥20 μgChl.a /L (sites Type 1)、10 ≤ Chl. a < 20 (Type 2)、5 ≤ Chl. a < 10 (Type 3)、2 ≤ Chl. a < 5 (Type 4)、<2 μgChl.a/L (Type 5))、各区分におけるChl.a濃度、TOC含量、およびM-AMBI値について経年変化を明らかにした。
瀬戸内海における1990年代、2000年代、および2010年代の総種数は426、492、および654種であり、AMBI種名リストには352、372、および486種が記載されていた。M-AMBI値は385、373、および403地点で得られ瀬戸内海を評価する上で十分な解析地点となった。瀬戸内海における各年代のM-AMBI値の空間分布パターンは類似しており、閉鎖性の高い内湾や沿岸域では低い傾向であり、ベントス群集の健全性が低いことが明らかとなった。1980年代のChl.a濃度を用いた海域区分により、夏季Chl.a濃度が平均的に5 μg/Lを超える海域(Type 1-3)は瀬戸内海全面積の10%にも満たず、90%以上が5 μg/Lを下回る海域であった。底質特性項目およびM-AMBI値を用いた主成分分析の結果、PC1はTOC含量等の有機汚濁の程度を表す項目で代表され(寄与率56%)、M-AMBI値も高い負の相関を示した。5区分におけるChl.a濃度、TOC含量、およびM-AMBI値の経年変化から、Chl. a濃度は1980年代から2010年代にかけて20 μg/L以上のType 1海域で著しく低下し(74%減)、Type 2〜4海域においても有意に低下した(p < 0.05)。一方、Type 5海域では有意な低下は見られなかった。1980年代にChl. a濃度が高かった海域ではTOC含量も同様に高い傾向にあり、含量は1990年代にピークに達し、1990年代から2010年代にかけて大きく減少した。M-AMBI値については、Type 1、2海域において1990年代から2010年代にかけての統計的に有意な増加は見られなかったが、全区分において経年的に上昇傾向であった。
上記の結果より、瀬戸内海における陸域流入負荷削減は、閉鎖的な湾や沿岸部に位置するChl.a濃度の高い海域(Type 1-4)においてより強く植物プランクトン量を減少させたことを示している。水柱のChl. a濃度の低下により海底への有機物負荷が低減され、堆積物中のTOC含量の減少、さらには還元状態からの回復と硫化物含量の減少につながり、ベントス群集の健全性(M-AMBI)が改善したと推察された。Chl.a濃度が低く、長期変化が見られなかったType 5海域においても堆積物中のTOC含量が有意に減少しM-AMBI値が上昇したことから、周辺地域からの有機物負荷の低減によるものであると推察された。
瀬戸内海では、1980年から約10年に1度、400地点程度の底質・ベントスの一斉調査(第1回〜第4回瀬戸内海環境情報基本調査)が実施されており、それらの膨大な底質の物理化学的特性項目(TOC含量、粒度等)とマクロベントスの個体密度データを解析に用いた。なお、1980年代のベントスデータは使用していない。解析にはAMBI software version 5.0を使用し、各地点におけるAZTI Marine Biotic Index(AMBI)値を算出した(Borja et al. 2000)。AMBI値は、定義された生態学的グループ(GⅠ〜Ⅴ)を構成種ごとに当てはめ、それらの組成に基づいて算出される。同解析ソフトを使用し、種数、Shannon index(H’)、およびAMBI値の因子分析により計算される総合的な生物指数であるM-AMBI値を算出した(Muxika et al. 2007)。1980年代の夏季クロロフィルa(Chl.a)濃度を用いて瀬戸内海全域を5つの海域に区分し(≥20 μgChl.a /L (sites Type 1)、10 ≤ Chl. a < 20 (Type 2)、5 ≤ Chl. a < 10 (Type 3)、2 ≤ Chl. a < 5 (Type 4)、<2 μgChl.a/L (Type 5))、各区分におけるChl.a濃度、TOC含量、およびM-AMBI値について経年変化を明らかにした。
瀬戸内海における1990年代、2000年代、および2010年代の総種数は426、492、および654種であり、AMBI種名リストには352、372、および486種が記載されていた。M-AMBI値は385、373、および403地点で得られ瀬戸内海を評価する上で十分な解析地点となった。瀬戸内海における各年代のM-AMBI値の空間分布パターンは類似しており、閉鎖性の高い内湾や沿岸域では低い傾向であり、ベントス群集の健全性が低いことが明らかとなった。1980年代のChl.a濃度を用いた海域区分により、夏季Chl.a濃度が平均的に5 μg/Lを超える海域(Type 1-3)は瀬戸内海全面積の10%にも満たず、90%以上が5 μg/Lを下回る海域であった。底質特性項目およびM-AMBI値を用いた主成分分析の結果、PC1はTOC含量等の有機汚濁の程度を表す項目で代表され(寄与率56%)、M-AMBI値も高い負の相関を示した。5区分におけるChl.a濃度、TOC含量、およびM-AMBI値の経年変化から、Chl. a濃度は1980年代から2010年代にかけて20 μg/L以上のType 1海域で著しく低下し(74%減)、Type 2〜4海域においても有意に低下した(p < 0.05)。一方、Type 5海域では有意な低下は見られなかった。1980年代にChl. a濃度が高かった海域ではTOC含量も同様に高い傾向にあり、含量は1990年代にピークに達し、1990年代から2010年代にかけて大きく減少した。M-AMBI値については、Type 1、2海域において1990年代から2010年代にかけての統計的に有意な増加は見られなかったが、全区分において経年的に上昇傾向であった。
上記の結果より、瀬戸内海における陸域流入負荷削減は、閉鎖的な湾や沿岸部に位置するChl.a濃度の高い海域(Type 1-4)においてより強く植物プランクトン量を減少させたことを示している。水柱のChl. a濃度の低下により海底への有機物負荷が低減され、堆積物中のTOC含量の減少、さらには還元状態からの回復と硫化物含量の減少につながり、ベントス群集の健全性(M-AMBI)が改善したと推察された。Chl.a濃度が低く、長期変化が見られなかったType 5海域においても堆積物中のTOC含量が有意に減少しM-AMBI値が上昇したことから、周辺地域からの有機物負荷の低減によるものであると推察された。