日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 沿岸海洋⽣態系─1.⽔循環と陸海相互作⽤

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (10) (Ch.10)

コンビーナ:杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、コンビーナ:山田 誠(龍谷大学経済学部)、藤井 賢彦(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、コンビーナ:小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、座長:小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、山田 誠(龍谷大学経済学部)

11:00 〜 13:00

[ACG42-P01] 北海道南西部漁港における魚類の餌場機能

*梶原 瑠美子1布川 雅典1、的野 博行1、大橋 正臣2小森田 智大3、宮下 和士4、門谷 茂4 (1.国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所、2.東海大学、3.熊本県立大学、4.北海道大学)

キーワード:保護育成機能、エゾメバル、バイオテレメトリー、動物プランクトン、底生生態系

近年の水産資源の低迷を踏まえ、水産庁により水産生物の生活史に対応した生息空間を創出する「水産環境整備」が推進されている。漁港などの沿岸施設は、安全な漁船からの漁獲物の荷揚げなどの本来的機能に加え、漁港内水域の泊地や防波堤などの構造物における高波浪や捕食者からの避難場、餌場機能などと言った保護育成機能を副次的に有していることから、保護育成機能の強化が求められている。そのためには、保護育成機能のメカニズム解明が必要であるが、水産生産上重要な位置づけにある北海道周辺の海域ではこのメカニズムに関する研究は少ない。特に、漁港の保護育成機能に関する既往研究では、浅海域で重要な生態系構成因子である底生基礎生産者を考慮した漁港の餌場機能に関する知見は乏しい。そこで、本研究では、北海道南西部に位置する寿都漁港で、生物および物理化学的な基礎知見を得るための現地調査と魚類行動を観察するためのバイオテレメトリー調査を行い、底生生態系を考慮した餌場機能について評価した。
 調査期間を通して、漁港内水域は漁港外に比べ静穏であったが、漁港内外で塩分や水温に極端な違いは見られなかった。底層水のDOは常に6 mgO2/l以上であり、水柱は常に好気的環境であった。動物プランクトンの密度は港内外で有意な差はなかったが、底生動物の密度や生物量は港内で有意に多かった。加えて、漁港内最奥部の表層堆積物では、Chl.a、有機炭素、NH4の現存量が漁港外よりも有意に高かった。様々な生活史段階や様式のエゾメバル(Sebastes taczanowskii)をはじめとする19科31種が漁港内で観察された。その上、漁港内での底生動物の優占種が、7種の魚類の胃内要物で確認された。また、港内で採捕した優占種のエゾメバル11個体に超音波発信器を装備し、港内に放流した。港奥、港口、港外に設置した3基の受信機での約5ヶ月間の受信割合は、多くの個体が港奥で受信される割合が最も高く、港外への移動が少ないことが明らかとなった。エゾメバルは、港内を主要な生息空間としており、港内の餌場機能の重要性が示唆された。
 これらの結果は、様々な魚種が餌場として漁港内を利用していることを示唆した。その上、静穏な漁港内の安定した海底環境は、プランクトン生態系と組み合わされた持続可能な底生生態系を作り出すことに貢献し、漁港内の餌場機能を支えるために重要だと考えられた。