日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG43] 北極域の科学

2022年5月27日(金) 13:45 〜 15:15 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:Ono Jun(JAMSTEC Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)、コンビーナ:両角 友喜(北海道大学 大学院農学研究院)、島田 利元(宇宙航空研究開発機構)、コンビーナ:堀 正岳(東京大学大気海洋研究所)、座長:島田 利元(宇宙航空研究開発機構)、両角 友喜(北海道大学 大学院農学研究院)

14:30 〜 14:45

[ACG43-15] LバンドInSARと現地観測により検出したバタガイ周辺の火災後永久凍土融解の時空間的不均一性

*柳谷 一輝1古屋 正人2岩花 剛3,4、Petr Danilov5 (1.北海道大学大学院理学院、2.北海道大学大学院理学研究院、3.アラスカ大学フェアバンクス校国際北極圏研究センター、4.北海道大学北極域研究センター、5.北東連邦大学ヤクーツク校)

キーワード:InSAR、ALOS-2、森林火災、永久凍土、急速融解、バタガイ

温暖化による永久凍土の融解は土壌有機炭素の微生物分解を促進し温室効果ガスを放出する。特に、森林火災や伐採跡地等において急速かつ深部まで進行する凍土融解は、気温上昇による広範な融解よりも多くの炭素放出をもたらすと推定されている。また、温暖化は北極圏における雷の増加をもたらし、将来的な火災の増加とそれに伴う急速融解が気温上昇を更に加速させると懸念されている。しかし、急速融解は局所的かつ不均一に発生するため、気温上昇による均一的な融解に比べて融解量の推定が困難であり、現行の地球システムモデルでは十分に考慮されていない。そのため、急速融解プロセスの解明と融解量の広域観測が必要である。
研究対象は北東シベリア・サハ共和国に位置するバタガイ周辺で発生した火災後の急速融解である。集落の南東約10㎞の地点にバタガイカ・メガスランプと呼ばれる融解浸食地形が在り、その近傍で2018・2019年に2つの森林火災が発生し6.8㎞²が燃焼した。急速融解に伴う地下氷の融解は不可逆的な地盤沈下を引き起こし、第二のメガスランプの引き金となる可能性もある。そのため、合成開口レーダー干渉法(Interferometric Synthetic Aperture Radar: InSAR)と、SBAS法による時系列解析を適用し、季節的・経年的な地盤変動量を解析した。解析にはJAXAのLバンドSAR衛星であるALOS-2のデータを用い、先行研究より高い空間分解能を持つSM1モードを使用した。その結果、火災跡地内部における空間的に不均一な地盤変動シグナルを検出した。そこで、2021年9月に火災跡地内部の融解深と土壌水分量を現地観測し、融解状況から変動シグナルの不均一性を検証した。さらに、光学画像による植生・燃焼の指標や、標高・斜面の起伏との比較により空間的不均一性の原因を考察した。
 2019年火災跡地の大部分においては、衛星視線方向に、~6㎝の季節変動シグナルを検出したが、火災から2年しか経過していないにも関わらず経年的変動シグナルは検出されなかった。火災跡地内に発達していたガリー周辺では変動パターンが異なり、ガリー側面では季節的、経年的な変動シグナルのどちらも検出されなかった。また、2018年火災跡地は東側と西側の一部で~10㎝の季節変動シグナルを検出し、~8㎝の経年変動シグナルを検出した。一方で、中央部では季節的、経年的な変動シグナルは検出されなかった。火災跡地内部の変動域と非変動域を横切る側線上で融解深と土壌水分量を計測した結果、融解深は~150㎝で一様だったが、土壌水分量は非変動域で~20%低下する傾向があった。土壌水分分布は植生や燃焼の指数とは相関が見られず、ガリー地形や2~3m程度の斜面の起伏との対応が見られる。一般的に、火災跡地内部では融解深が増加するため、概観的には季節的変動量の増加が融解深と対応しているように見える。しかし、本研究における地盤変動の空間的不均一性は、火災跡地内部で一様な融解深では説明できず、地形に対応した土壌水分分布との相関が見られた。この相関関係は、季節変動量がアイスレンズの形成量に依存することを定性的に示しており、季節的沈下量から融解深を推定する単純なアルゴリズムが不適切であることを示唆している。