日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG45] 陸域〜沿岸域における⽔・⼟砂動態

2022年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:山崎 大(東京大学生産技術研究所)、コンビーナ:木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、浅野 友子(東京大学)、コンビーナ:有働 恵子(東北大学災害科学国際研究所)、座長:山崎 大(東京大学生産技術研究所)、浅野 友子(東京大学)

10:45 〜 11:00

[ACG45-07] 付加体堆積岩からなる大起伏な山地流域で流域面積が大きくなるにつれ大きくなるピーク比流量

*浅野 友子1、鈴木 智之1川崎 雅俊2 (1.東京大学大学院農学生命科学研究科、2.サントリーグローバルイノベーションセンター 水科学研究所)

キーワード:大起伏山地、ピーク比流量、レーダ雨量計雨量、洪水流出、透水性の高い基岩

洪水流出の予測精度を向上させるためには、流域内の異なるスケールでの降雨-流出応答を理解する必要がある。これまで、単位面積あたりのピーク流量(ピーク比流量)は流域面積が大きくなるほど減少する観測結果が多く得られてきていることから、降雨時のピーク比流量は、流域面積が大きくなるほど減少するとして洪水流出予測がなされてきた。一方で、観測事例は少ないが、この仮定が適用できない流域があることも示唆されてきている。例えば透水性の高い基岩を有する流域では基岩中の水の流れが洪水時の流出にも大きく寄与していることが示されてきたが、このような流域では流域面積が大きくなるにしたがって、基岩を通過してきた地下水の寄与が増加することにより、ピーク比流量が増加する可能性がある。しかし、複数地点での洪水流出観測は容易ではなく、とくに起伏が大きく急峻な山地流域では観測が困難なため、流域面積とピーク比流量の関係が実証的に示された例は少ない。
 本研究では、付加体の堆積岩からなり基岩の透水性が高い大起伏な秩父山地において、CS(0.58 km2)、CM(2.2 km2)、CL(94 km2)の3つの流域面積の異なる入れ子状の流域で連続的に流量データを取得し、ピーク比流量および単位面積当たりの直接流出量(降雨によって生じる、基底流を除く洪水の主要部分をなす流量、以下では比直接流出量とする)は流域面積が大きいほど大きいという仮説を検証する。
降雨の空間分布が洪水流の空間分布に及ぼす影響を評価するために、レーダー雨量計による解析雨量データを、転倒マスによる地上雨量データとの比較により精度検証したうえで用いた。2013年から2019年の観測期間中には何度か土砂の影響で観測が中断することがあったが、総雨量26.5 mmから231.5 mm、リターンピリオド10-3年から3.2年の69降雨時のデータが得られた。洪水流量は降雨強度によって、また流域によって異なった。一定以上の大きな洪水時について流域間の比較を行うと、ピーク比流量や比直接流出量は、常に面積の大きい流域で大きかった。面積の大きい流域では、小さい流域に比べ比流量や比直接流出量が数倍大きく、時には一桁以上大きい場合もあった。一方で、ひと雨あたり積算降雨量を流域毎にもとめ比較すると、CLでCMやCSに比べて最大1.26倍大きかった。このことから、ピーク比流量や比直接流出量の流域間差に、降雨の空間分布が及ぼす影響は小さかったと考えられる。流域間のピーク流出の差は、斜面で基岩中に入った水が、小さい流域では流出せず、下流のより大きな流域で流出する経路が卓越することに由来すると考えられる。本研究や少数ある先行研究の結果は、基岩の透水性が高い大起伏な流域では、流域面積数十km2程度までは、これまでの仮定と逆に、流域面積が大きくなるほどピーク比流量や比直接流出量が増加する可能性を示している。