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[ACG46-02] 東アジア由来の燃焼起源エアロゾルの鉄安定同位体比の推定:福江島におけるエアロゾルの鉄安定同位体比の季節変化
キーワード:エアロゾル、燃焼起源鉄、鉄安定同位体比、東アジア
大気エアロゾルは、鉄によって生物生産が制限される海域における主要な鉄供給源のひとつである(Martin and Fitzwater, 1988; Jickells et al., 2005)。エアロゾルのうち、鉱物粒子などに含まれる自然起源鉄は排出量の大きさから重要視されている一方、工場などの燃焼により排出される燃焼起源鉄は排出量は少ないものの海水に溶けやすいため、生物が利用しやすい可溶性の鉄の供給源として着目されている(Sedwick et al., 2009; Ito et al., 2021)。しかし、両者の起源を区別した上で観測的に海洋表層への寄与を推定した例は少ない。
鉄安定同位体比(δ56Fe)は、起源別の鉄の寄与を推定する上で有効な指標となる。これまで筆者らは、燃焼起源鉄(代表値-4.3±0.4‰)が自然起源鉄(0.0‰)よりも低いδ56Feを持つことを初めて明らかにし、海洋エアロゾル中での起源別の鉄の寄与推定にも応用可能なことを示した(Kurisu et al., 2019; 2021)。しかし、燃焼起源鉄のδ56Feは日本での分析例しかないため、本研究では、日本以外の東アジア由来のエアロゾルに着目し、エアロゾル中のδ56Feの季節変化から、空気塊の由来や地域による燃焼起源鉄のδ56Feの違いについて考察することを目的とした。
試料採取は、中国などの東アジア由来のエアロゾルを捉えることのできる長崎県の福江島において、2019年11月から2020年4月にかけて5日おきに行い、粒径を2.5 μmで2分画してフィルター上に採取した。試料は混酸分解をしたのち、ICP質量分析計で微量金属濃度の分析を行った。また、鉄安定同位体分析は、ダブルスパイク法を適用し、陰イオン交換樹脂による鉄の分離を行った上で、マルチコレクター型ICP質量分析計を用いて行った。
後方流跡線解析から、エアロゾルを含む空気塊の由来は、おおよそ北西から北方向の範囲で変動することが分かった。エアロゾルの大気中質量濃度は3-4月にかけて高くなり、地殻に多いFeやチタン(Ti)の大気中濃度も同様の傾向を示すことから、東アジアの鉱物粒子の飛来の影響があることが分かった。一方、燃焼起源エアロゾルに多い鉛やニッケルなどは大気中濃度に顕著な変動は見られなかったが、微小粒子の濃縮係数(EF=(M/Ti)試料/(M/Ti)地殻, M:目的元素)は11-2月に高くなり、燃焼起源エアロゾルの影響が相対的に大きくなる傾向が見られた。δ56Feは、粗大粒子は平均0.07±0.17‰ (2SD)とすべての期間で地殻平均値と同様の値を示したが、微小粒子は11月から4月にかけて、-1.77‰から-0.10‰の範囲で徐々に上昇する傾向が見られた(平均-0.67±0.88‰, 2SD)。微小粒子のδ56Feが、鉛などのEFや、Fe濃度の逆数と負の相関を示すことから、今回採取したエアロゾル中の燃焼起源鉄は空気塊の由来や季節によらずほぼ一定のδ56Feを持ち、自然起源との混合で試料中のδ56Feが決まることが示唆された。ここから推定された燃焼起源鉄の端成分のδ56Feは-3.5‰程度であり、日本で採取したエアロゾルから推定した値(-4.3‰)よりもやや高かった。この理由として、地域による主要な排出源や排出温度によるδ56Feの違いが考えられ、エアロゾルの起源別の寄与推定には地域による違いを加味する必要があることが示唆された。
鉄安定同位体比(δ56Fe)は、起源別の鉄の寄与を推定する上で有効な指標となる。これまで筆者らは、燃焼起源鉄(代表値-4.3±0.4‰)が自然起源鉄(0.0‰)よりも低いδ56Feを持つことを初めて明らかにし、海洋エアロゾル中での起源別の鉄の寄与推定にも応用可能なことを示した(Kurisu et al., 2019; 2021)。しかし、燃焼起源鉄のδ56Feは日本での分析例しかないため、本研究では、日本以外の東アジア由来のエアロゾルに着目し、エアロゾル中のδ56Feの季節変化から、空気塊の由来や地域による燃焼起源鉄のδ56Feの違いについて考察することを目的とした。
試料採取は、中国などの東アジア由来のエアロゾルを捉えることのできる長崎県の福江島において、2019年11月から2020年4月にかけて5日おきに行い、粒径を2.5 μmで2分画してフィルター上に採取した。試料は混酸分解をしたのち、ICP質量分析計で微量金属濃度の分析を行った。また、鉄安定同位体分析は、ダブルスパイク法を適用し、陰イオン交換樹脂による鉄の分離を行った上で、マルチコレクター型ICP質量分析計を用いて行った。
後方流跡線解析から、エアロゾルを含む空気塊の由来は、おおよそ北西から北方向の範囲で変動することが分かった。エアロゾルの大気中質量濃度は3-4月にかけて高くなり、地殻に多いFeやチタン(Ti)の大気中濃度も同様の傾向を示すことから、東アジアの鉱物粒子の飛来の影響があることが分かった。一方、燃焼起源エアロゾルに多い鉛やニッケルなどは大気中濃度に顕著な変動は見られなかったが、微小粒子の濃縮係数(EF=(M/Ti)試料/(M/Ti)地殻, M:目的元素)は11-2月に高くなり、燃焼起源エアロゾルの影響が相対的に大きくなる傾向が見られた。δ56Feは、粗大粒子は平均0.07±0.17‰ (2SD)とすべての期間で地殻平均値と同様の値を示したが、微小粒子は11月から4月にかけて、-1.77‰から-0.10‰の範囲で徐々に上昇する傾向が見られた(平均-0.67±0.88‰, 2SD)。微小粒子のδ56Feが、鉛などのEFや、Fe濃度の逆数と負の相関を示すことから、今回採取したエアロゾル中の燃焼起源鉄は空気塊の由来や季節によらずほぼ一定のδ56Feを持ち、自然起源との混合で試料中のδ56Feが決まることが示唆された。ここから推定された燃焼起源鉄の端成分のδ56Feは-3.5‰程度であり、日本で採取したエアロゾルから推定した値(-4.3‰)よりもやや高かった。この理由として、地域による主要な排出源や排出温度によるδ56Feの違いが考えられ、エアロゾルの起源別の寄与推定には地域による違いを加味する必要があることが示唆された。