日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 流域圏生態系における物質輸送と循環:源流から沿岸海域まで

2022年5月24日(火) 15:30 〜 17:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:安元 純(琉球大学 農学部)、コンビーナ:小林 政広(国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所)、奥田 昇(神戸大学)、コンビーナ:Paytan Adina(University of California Santa Cruz)、座長:細野 高啓(熊本大学大学院先端科学研究部)

16:00 〜 16:15

[AHW24-21] 宍道湖・中海周辺河川懸濁粒子のパリノファシス・パリノモルフ組成と運搬作用の関係性

*安藤 卓人1、瀬戸 浩二1香月 興太1仲村 康秀1、金 相曄1、川井田 俊1齋藤 文紀1 (1.島根大学 エスチュアリー研究センター)

キーワード:パリノファシス、パリノモルフ、生体高分子

パリノモルフ (palynomorph; 有機質微化石) は有機質の殻や膜組織であり,これらにアモルファス有機物 (amorphous organic matter: AOM),植物組織などの有機物片であるパリノデブリ (palynodebris) を含めて存在比を示したものは,パリノファシス(palynofacies)とよばれ,堆積場や古環境の指標として用いられてきた。宍道湖と中海には斐伊川や飯梨川をはじめとした大小様々な河川が流入し,国内最大級の汽水域が形成されている。中海や宍道湖の表層堆積物中からは,現地性の渦鞭毛藻シストなどの水生パリノモルフの他に,異地性の緑藻やシアノバクテリアの遺骸が含まれる。これらの抵抗性の高分子から構成される有機物がどのように運搬されてくるか,後背地や河川の流域面積などの特徴をどの程度反映しているのかは検討が進んでいない。また,堆積物中のパリノファシスの研究例に比べて,河川懸濁粒子中のパリノファシスを検討した例はほとんどない。本研究では,斐伊川を含む宍道湖周辺河川16地点,飯梨川などの中海周辺河川9地点,および美保湾に流れ込む日野川から河川水を採取し,有機物の堆積過程を明らかにするために懸濁粒子中のパリノモルフ・パリノファシス分析を行なった。
 2021年9月に5Lの水を各河川から採取し,遠心分離機によって沈殿・回収したのち,酸(HCl, HF)処理した試料を顕微鏡で観察した。主なパリノモルフとして,花粉や胞子,クンショウモやイカダモなどの緑藻遺骸,ツヅミモなどの接合藻類の遺骸や接合胞子,シアノバクテリアの遺骸とアキネート,有核アメーバの殻,菌糸や子嚢胞子などの菌類パリノモルフが観察された。今回分離された有機物は,塩基処理が必要なケロジェンとは異なり,セルロース等の容易に加水分解されるような高分子も含む。そのため,セルロースで構成される渦鞭毛藻の鎧版やユーグレナの遺骸なども観察された。斐伊川,飯梨川,日野川の流域面積が広く流量が大きい河川の懸濁粒子ではCosmariumが主成分であり,宍道湖・中海表層堆積物に多いStaurastrumやクンショウモは観察されなかった。ところが,Staurastrumとクンショウモは2021年6月末の豪雨後の斐伊川懸濁粒子試料からは確認された。そのため,輸送中の有機物分解のバイアスを考える上では季節性も考慮する必要があることがわかった。AOMは,多くの試料で淡褐色であり,河川もしくは上流部のため池や水田,ダム湖で生産した珪藻などの植物プランクトン遺骸に由来すると推測される。一方,斐伊川,飯梨川では,AOMの黒色化が進行していた。輸送課程中に続成過程を経て高分子構造が変化し,変色したと考えられる。また,パリノデブリのうち植物由来の破片は,宍道湖南岸の玉湯川や来待川の試料で多く含まれ,実際にこれらの試料ではC/N比が他の試料と比べて高かった。以上のことから,分解や物理的な破壊によるバイアスを考慮する必要はあるものの,河川中懸濁粒子中のパリノファシスはそれぞれの河川の運搬過程の特徴をよく反映していることが明らかになった。