日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW26] 同位体水文学2022

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (9) (Ch.09)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、コンビーナ:大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、コンビーナ:中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、座長:浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)

11:00 〜 13:00

[AHW26-P03] 埼玉県荒川扇状地の浅層地下水システムに関する地球化学的研究

石澤 芙雪1、*安原 正也2李 盛源2伊東 優希3中村 高志4 (1.株式会社富士薬品、2.立正大学地球環境科学部、3.立正大学大学院地球環境科学研究科、4.山梨大学国際流域環境研究センター)

キーワード:扇状地、浅層地下水、窒素同位体、畜産業、化学肥料、漬物業

埼玉県北部の関東山地と関東平野境界部に展開する荒川扇状地において,その櫛挽面(武蔵野面に相当;標高40-100 m)に対象に,扇状地の水理地質構造と浅層地下水の流下に伴う水質変化プロセスの解明を目的とした調査・研究を行った.櫛引面では,層厚1-2 mのローム層の下位に扇状地礫層が10-15 m程度発達する.櫛引面全域に畑地が広がるが,特に上流部では花卉栽培,中流部では畜産業や造園業が盛んである.また,下流部には多数の漬物工場が稼働しており,最下流部(扇端部)には深谷市街地が展開する.現地調査および採水は 2021 年 5 月と 7~9 月に,浅井戸 15 地点,湧水 2 地点の計 17 地点で行った.本研究の結果,以下のことが明らかとなった.
(1) 地下水面は地形面と非常に良い対応を示しながら北東に向って低下する.このことから,浅層地下水は南西から北東方向へ向かって流動しているものと推定される.
(2) 多くの地点の地下水が Ca-NO3型,Ca-SO4型の水質を示した原因として,畑地で大量に使用されている化学肥料(硫酸アンモニウム)の影響が考えらえる.NO3-の窒素同位体比も概ね7-8‰以下と化学肥料に特徴的な値を有する.
(3) 多数の畜舎が分布する中流部(深谷市本郷地区とその周辺)の地下水は100 mg/L以上の著しく高いNO3-濃度を示す.家畜排泄物の地下浸透がその主たる原因と考えられる.窒素同位体比が十数‰と高い値を示すこととも整合的である.
(4) 深谷市岡部地区(下流部)の地下水は高いNa+,Cl-濃度で特徴づけられる(Cl-濃度の最高値:61 mg/L).排水処理が不完全であった当時,土壌や地下水に大量に付加された食塩を含む排水の一部が現在も残留し,地下水の水質に影響を及ぼしている可能性が高い.
(5) 扇状地下流部の深谷市宿根地区とその周辺には,下位の地下水(「本水」)と水質組成や濃度が明らかに異なる「宙水」が存在する.
(6) 扇端部に展開する深谷市街地の地下水も高濃度のNO3-濃度,Cl-濃度を呈する.他の都市部でも指摘されているように(たとえば,伊東ほか,2020),老朽化した排水管や下水道管からもたらされた下水漏水が地下水に混入している可能性が示唆される.
今後,地下水水質とその季節変化,NO3-の窒素・酸素同位体比,SO42-の硫黄同位体比,フロン類濃度に基づく地下水の滞留時間の測定など,マルチトレーサーに基づいて荒川扇状地の浅層地下水システムの解明をさらに進めてゆく予定である.