11:00 〜 13:00
[AHW27-P02] 東京都世田谷区北烏山の浅層地下水の水質特性について
キーワード:都市の浅層地下水、宙水、硝酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、窒素同位体
都市の浅層地下水は,災害時や緊急時の「自己」水源として近年社会的に大きな注目を集めている.しかし,その利活用にあたっての基礎となる都市の地下水の水質や利用可能量等に関する情報は十分とはいい難く,調査・研究事例のさらなる蓄積が望まれているところである.そこで,本研究では住宅や寺院が密集する東京都世田谷区北烏山地区を対象に,都市の浅層地下水の水質の現状把握と水質形成プロセスの解明を目的とした研究を行った.北烏山地区で17本(2020年9月),また比較のため,同地区の北西に位置する三鷹市牟礼地区で5本(2020年11月)の井戸を対象に調査を実施した.
烏山地区の最も浅い深度に賦存する地下水は,いわゆる「宙水」の形態を有する.表層のローム層の下位に分布するローム質粘土層が難透水層となり,上位のローム層中に宙水が形成される.2020年9月の宙水の水面の深さは地表から1.6-2.2 m,また1.9-3.7×10-3オーダーの動水勾配下,宙水は北西から南東方向に向かって流動している実態が明らかとなった.なお,ローム質粘土層の下位に位置する武蔵野礫層が地域の「本水」を胚胎する.三鷹市牟礼地区の地下水はこの本水を対象としており,本水の水面深度は地表から6-7 m程度である(堀内・渡辺,1993).
水質分析の結果,北烏山地区の17本の井戸は東西約500 m,南北約400 mという狭いエリア内に位置するにもかかわらず,その地下水の水質組成は特異であり,また主要溶存イオン濃度分布も著しく不均質であった.すなわち,Na-SO4・NO3型,Ca・Mg-SO4・NO3型,Ca-SO4型など自然環境下の地下水には通常認められない組成を呈すると同時に,Cl-濃度:2.9-13.7 mg/L,NO3-濃度:0.6-68.9 mg/L,またSO42-濃度:2.7-38.7 mg/Lと,人為汚染の指標となる成分についても地点間での濃度のばらつきが極めて大きかった.pHも概ね6.2以下と低く,最低値はpH4.7であった.約30年前の同地区における堀内・渡辺(1993)の水質調査結果と比較すると,組成的にはほぼ同じであるものの,いずれのイオンも若干ながら濃度は低下していた.都市の地下水中の溶存物質の起源として,近年下水漏水が内外で注目されているが(たとえば,伊東ほか,2020),上述した地下水の地球化学的特性からみて,北烏山地区においても下水漏水の寄与が示唆される.一方で,そのSO42-濃度の高さからは水道漏水の寄与(水道水のSO42-濃度は40 mg/L程度),さらには過去の土地利用(畑地で使用した大量の化学肥料の土壌残留)の影響も考えられる.今後,NO3-の窒素・酸素同位体比,SO42-の硫黄同位体比,フロン類濃度に基づく地下水の滞留時間の測定など,マルチトレーサーに基づいて同地区の浅層地下水システムの解明を進めてゆく予定である.併せて,豊水期における本水の水位上昇による,本水と宙水の一体化に伴う宙水の水質変化にも注目してゆきたい.
烏山地区の最も浅い深度に賦存する地下水は,いわゆる「宙水」の形態を有する.表層のローム層の下位に分布するローム質粘土層が難透水層となり,上位のローム層中に宙水が形成される.2020年9月の宙水の水面の深さは地表から1.6-2.2 m,また1.9-3.7×10-3オーダーの動水勾配下,宙水は北西から南東方向に向かって流動している実態が明らかとなった.なお,ローム質粘土層の下位に位置する武蔵野礫層が地域の「本水」を胚胎する.三鷹市牟礼地区の地下水はこの本水を対象としており,本水の水面深度は地表から6-7 m程度である(堀内・渡辺,1993).
水質分析の結果,北烏山地区の17本の井戸は東西約500 m,南北約400 mという狭いエリア内に位置するにもかかわらず,その地下水の水質組成は特異であり,また主要溶存イオン濃度分布も著しく不均質であった.すなわち,Na-SO4・NO3型,Ca・Mg-SO4・NO3型,Ca-SO4型など自然環境下の地下水には通常認められない組成を呈すると同時に,Cl-濃度:2.9-13.7 mg/L,NO3-濃度:0.6-68.9 mg/L,またSO42-濃度:2.7-38.7 mg/Lと,人為汚染の指標となる成分についても地点間での濃度のばらつきが極めて大きかった.pHも概ね6.2以下と低く,最低値はpH4.7であった.約30年前の同地区における堀内・渡辺(1993)の水質調査結果と比較すると,組成的にはほぼ同じであるものの,いずれのイオンも若干ながら濃度は低下していた.都市の地下水中の溶存物質の起源として,近年下水漏水が内外で注目されているが(たとえば,伊東ほか,2020),上述した地下水の地球化学的特性からみて,北烏山地区においても下水漏水の寄与が示唆される.一方で,そのSO42-濃度の高さからは水道漏水の寄与(水道水のSO42-濃度は40 mg/L程度),さらには過去の土地利用(畑地で使用した大量の化学肥料の土壌残留)の影響も考えられる.今後,NO3-の窒素・酸素同位体比,SO42-の硫黄同位体比,フロン類濃度に基づく地下水の滞留時間の測定など,マルチトレーサーに基づいて同地区の浅層地下水システムの解明を進めてゆく予定である.併せて,豊水期における本水の水位上昇による,本水と宙水の一体化に伴う宙水の水質変化にも注目してゆきたい.