日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW27] 都市域の水環境と地質

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (10) (Ch.10)

コンビーナ:林 武司(秋田大学教育文化学部)、コンビーナ:宮越 昭暢(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、座長:林 武司(秋田大学教育文化学部)、宮越 昭暢(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)

11:00 〜 13:00

[AHW27-P04] 感染症の大規模流行による社会変容が都市域の水循環・物質移行に与える影響の検討

*林 武司1安原 正也2中村 高志3 (1.秋田大学教育文化学部、2.立正大学地球環境科学部、3.山梨大学国際流域環境研究センター)

キーワード:都市域、水循環・物質移行、パンデミック、社会変容

筆者らは,首都圏を擁する関東平野の西部を対象地域として,都市域における水循環・物質移行の実態を把握するためのマルチトレーサー手法の開発に取り組んできた(科研費番号:19K12293,24651022).しかし,新型コロナウィルス感染症(以下,COVID-19)の感染者が2020年1月に初めて国内で確認されて以降,感染者が急速に全国に拡大した.その後,2年以上にわたって流行が継続してきたことにより,人々の行動様式や産業など,日本社会は様々な面において大きく変容してきた.このことは,研究対象地域における水循環・物質移行にも影響をもたらしていることが考えられる.そこで筆者らは,マルチトレーサーの指標となる水の地球化学性状や多様な溶存物質について,COVID-19の流行以降の性状の変化に関する国内外の研究をレビューするとともに,研究対象地域の社会状況,特に地下水や溶存物質の涵養源となり得る水道水の使用量や農産物の作付面積等について情報収集を進めている.本発表では,これらの情報に基づいて,COVID-19の流行による社会変容が研究対象地域の水循環・物質移行に与える影響について検討した結果を報告する.
都市域における主要な地下水涵養源の1つである生活用水由来の水については,研究対象地域にかかわる地方行政団体あるいは水道事業体の給水量統計を調査した結果,2020年度には多くの機関において給水量が前年度より増加したことが確認された.この結果は,COVID-19の流行によって在宅時間の増加した人々が多かったことによるものと考えられる.Toyosada et al.(2021)によると,日本ではCOVID-19の流行以降,在宅時間の増加に伴って生活用水の使用量が有意に増加しており,とくに手洗いの頻度・継続時間の増加や台所用水の増加が指摘されている.このことは,研究対象地域全体としての下水漏水量の増加と,それに伴う地下水涵養量の増加,さらに下水に由来する各種の溶存物質の地下供給量の増加をもたらした可能性がある.例えば,下水中に洗剤由来の化学物質が増加したことが考えられる.海外での事例として,中国の武漢ではCOVID-19の流行以降,環境水中のPPCPs濃度が増加したことが指摘されている(Chen et al.,2021).
一方,地下水・溶存物質の供給源の1つである農業については,2020年には,研究対象地域を含む地方公共団体のほぼ全てにおいて,食用米の作付面積が減少した.これについては,COVID-19の流行によって外食産業が低迷し,コメの需要が低下したことが要因とされる.このことは,水田からの地下水涵養量が減少したと同時に,農業にかかわる元素や化学物質の地下浸透量も減少したことを示唆する.
これらの変化が,研究対象地域の地下水の量・質にどのような影響を及ぼすか,注意深く継続的に調査する必要がある.