14:15 〜 14:30
[AOS17-03] 水面波による混合の鉛直構造についての水槽実験
キーワード:海洋表層混合
海洋表層での鉛直混合は、海洋の混合層深度を変化させ、海面水温に影響を与えることで大気海洋間の相互作用において重要な役割を果たす。その混合の生成要因には熱・風・波が挙げられるが、近年とりわけ波の軌道運動流速の作用による混合の重要性が多くの研究で指摘されている。波の軌道運動流速による混合は、風成シア流と波の相互作用によりCL2不安定機構が生じて生成する渦対構造を持つラングミュア循環による混合が代表的である。一方、風成シア流がなくても波単独でも混合が起きることが水槽実験(Babanin and Haus, 2009; Dai et al., 2010; Savelyev et al., 2012)や数値実験(Tsai et al., 2015, 2017; Fujiwara et al., 2020)より明らかになっている。本研究ではこの波単独による混合に注目する。
Savelyev et al. (2012) は水槽において、赤外線を用いて波が伝播している水面に筋状の構造を確認し、水面付近に渦対が存在していることを示唆した。Tsai et al. (2017)では、Savelyev et al. (2012)の水槽実験で確認された筋状構造の幅とCL2機構における不安定の波数との比較を行い、この筋状構造はCL2機構で生じた渦対構造であることを示唆した。また、Dai et al. (2010)の水槽実験(以下、「Dai実験」と呼ぶ)では、波を数十分にわたって伝播させた結果、初期に成層した水温が鉛直一様化していく様子が捉えられている。そこで、我々はDai実験を模した数値実験(今村他、2021;今村・吉川、2021)を行ったところ、風応力を与えずに波単独でもC L2機構により渦対が生成され、混合を引き起こし、水温が鉛直一様化することを確認した。しかし、水温が鉛直一様な層が深まる速さは、Daiの水槽実験の方が数値実験よりも早かった。そこで本研究では、水槽実験においても本当にC L2機構により渦対が生成され、混合が引き起こされるのかを確認する。
水槽実験は、九州大学応用力学研究所の深海機器力学実験水槽を用いて行った。この水槽は長さ65m、幅5m、深さ7.5mである。この長さ、幅、深さはいずれもDai et al. (2010)やSavelyev et al. (2012)で用いられた水槽よりも大きいため、水槽の側壁や反射波の影響を抑えた水槽実験が可能であると考えている。水槽は建物内にあり無風状態を実現できる。水槽の端に備え付けられたプランジャー型の造波機により周期1s(波長=156cm)、振幅4cmの波(波形勾配=0.16)を発生させる。この波は深水波とみなすことができる。
ここでは、2種類の実験を行った。まず、1つ目の実験(実験1)として、波による混合の存在を確認するために、Dai実験にならい水面波を伝播させたときの水温の鉛直構造の時間変化を計測する。次に2つ目の実験(実験2)として、鉛直混合の存在を確認するために、鉛直方向の水の運動を可視化する実験を行う。
まず、静水時と波の発生から4, 19, 34, 49分後において、水面から水深90cmにかけて1cm刻みで水温を計測した(実験1)。その結果、波の発生開始から4分後では、静水時に比べて、水面から水深20cmにかけての水温が鉛直一様化した様子が確認された。一方、波発生から長時間が経過すると(19, 34, 49分後)、静水時に比べて水温がどの深さでも低下しており、下層の冷水の上昇が示唆された。このような時間変化は、Dai実験における水温変化の様子と定性的に似ており、Dai実験を概ね再現できたと言える。波の発生から長時間が経過したときの全体的な水温低下は、Dai実験や今回の水槽実験では見られた一方で、Dai実験を模した数値実験では、確認されなかった。このため、このような水温低下は、波による鉛直混合の結果というよりは、水槽における二次的な循環によるものであることが示唆された。
次に、マイクロバブルを水中で発生させてこれをトレーサーとし、このトレーサーをレーザーで照らすことで、最初の波の通過から2.3s後から21.0s後にかけての水の鉛直方向の運動を可視化した(実験2)。この結果、トレーサーが水面から下に凸な構造をつくり、局所的に沈降する様子を確認した。また、この下に凸な構造の幅は時間とともに広がっていた。そこで、Tsai et al.(2017)と同様に、ここでの水槽実験で確認されたトレーサーの下に凸な構造と、CL2機構における不安定の波数とを比較した。最初の波が通過してから5s後までに見られた下に凸な構造の波数帯は、CL2機構における不安定の波数とおよそ整合的であった。
このように、本研究の水槽実験においてもDaiの水槽実験の水温変化と定性的に同様の結果が得られた。水槽実験においても渦対は確かに生成されており、この渦対はC L2機構で生じる渦対と整合的であった。水温変化は、波が発生してすぐ(4分後)は、波による混合の結果である一方で、時間が経つと混合以外の要因(水槽内の2次循環)が考えられた。水槽実験における混合の過大評価はこの2次循環などが原因と考えられる。
Savelyev et al. (2012) は水槽において、赤外線を用いて波が伝播している水面に筋状の構造を確認し、水面付近に渦対が存在していることを示唆した。Tsai et al. (2017)では、Savelyev et al. (2012)の水槽実験で確認された筋状構造の幅とCL2機構における不安定の波数との比較を行い、この筋状構造はCL2機構で生じた渦対構造であることを示唆した。また、Dai et al. (2010)の水槽実験(以下、「Dai実験」と呼ぶ)では、波を数十分にわたって伝播させた結果、初期に成層した水温が鉛直一様化していく様子が捉えられている。そこで、我々はDai実験を模した数値実験(今村他、2021;今村・吉川、2021)を行ったところ、風応力を与えずに波単独でもC L2機構により渦対が生成され、混合を引き起こし、水温が鉛直一様化することを確認した。しかし、水温が鉛直一様な層が深まる速さは、Daiの水槽実験の方が数値実験よりも早かった。そこで本研究では、水槽実験においても本当にC L2機構により渦対が生成され、混合が引き起こされるのかを確認する。
水槽実験は、九州大学応用力学研究所の深海機器力学実験水槽を用いて行った。この水槽は長さ65m、幅5m、深さ7.5mである。この長さ、幅、深さはいずれもDai et al. (2010)やSavelyev et al. (2012)で用いられた水槽よりも大きいため、水槽の側壁や反射波の影響を抑えた水槽実験が可能であると考えている。水槽は建物内にあり無風状態を実現できる。水槽の端に備え付けられたプランジャー型の造波機により周期1s(波長=156cm)、振幅4cmの波(波形勾配=0.16)を発生させる。この波は深水波とみなすことができる。
ここでは、2種類の実験を行った。まず、1つ目の実験(実験1)として、波による混合の存在を確認するために、Dai実験にならい水面波を伝播させたときの水温の鉛直構造の時間変化を計測する。次に2つ目の実験(実験2)として、鉛直混合の存在を確認するために、鉛直方向の水の運動を可視化する実験を行う。
まず、静水時と波の発生から4, 19, 34, 49分後において、水面から水深90cmにかけて1cm刻みで水温を計測した(実験1)。その結果、波の発生開始から4分後では、静水時に比べて、水面から水深20cmにかけての水温が鉛直一様化した様子が確認された。一方、波発生から長時間が経過すると(19, 34, 49分後)、静水時に比べて水温がどの深さでも低下しており、下層の冷水の上昇が示唆された。このような時間変化は、Dai実験における水温変化の様子と定性的に似ており、Dai実験を概ね再現できたと言える。波の発生から長時間が経過したときの全体的な水温低下は、Dai実験や今回の水槽実験では見られた一方で、Dai実験を模した数値実験では、確認されなかった。このため、このような水温低下は、波による鉛直混合の結果というよりは、水槽における二次的な循環によるものであることが示唆された。
次に、マイクロバブルを水中で発生させてこれをトレーサーとし、このトレーサーをレーザーで照らすことで、最初の波の通過から2.3s後から21.0s後にかけての水の鉛直方向の運動を可視化した(実験2)。この結果、トレーサーが水面から下に凸な構造をつくり、局所的に沈降する様子を確認した。また、この下に凸な構造の幅は時間とともに広がっていた。そこで、Tsai et al.(2017)と同様に、ここでの水槽実験で確認されたトレーサーの下に凸な構造と、CL2機構における不安定の波数とを比較した。最初の波が通過してから5s後までに見られた下に凸な構造の波数帯は、CL2機構における不安定の波数とおよそ整合的であった。
このように、本研究の水槽実験においてもDaiの水槽実験の水温変化と定性的に同様の結果が得られた。水槽実験においても渦対は確かに生成されており、この渦対はC L2機構で生じる渦対と整合的であった。水温変化は、波が発生してすぐ(4分後)は、波による混合の結果である一方で、時間が経つと混合以外の要因(水槽内の2次循環)が考えられた。水槽実験における混合の過大評価はこの2次循環などが原因と考えられる。