16:00 〜 16:15
[AOS18-03] 海氷融解水が生物化学的環境と春季ブルームに与える影響
‐南部オホーツク海における船舶観測‐
キーワード:海氷融解水、鉄、春季ブルーム、オホーツク海
オホーツク海は北太平洋北西部に位置する縁辺海で北半球における季節海氷域の南限である。オホーツク海南部では春季の海氷融解時期に植物プランクトンによる大規模なブルームが起こることが知られており(Sorokin and Sorokin, 1999; Mustapha and Saitoh, 2008)、周辺海域より規模の大きい春季ブルームが発生する要因は現在明らかになっていない。先行研究では衛星観測・ERA-Interimデータに基づき海氷の生成・融解プロセスを考慮した熱塩フラックスが算出され、春季ブルームの空間分布が海氷の融解領域とおおよそ一致することが示された(Nihashi et al., 2012)。Kanna et al.(2018)では11月–2月にかけて行われた現場観測と培養実験により春季ブルームを促す冬期の鉄(Fe)供給プロセスが評価され、海氷によるFeの供給が春季ブルームの発生に重要な役割を果たすことが示唆された。Kishi et al.(2021)の酸素センサー搭載型プロファイリングフロートを用いた春季ブルーム期間の時系列データは、春季ブルームの強化を成層強化のみで説明できず海氷の融解により供給される物質など他の要因の存在を示唆した。これらの先行研究では、春季ブルーム時の光環境、主要栄養塩やFeの濃度、植物プランクトンの種組成など情報が不足しており、海氷の融解が春季ブルームを引き起こす原因の詳細は明らかになっていない。この原因の解明には春季ブルーム時の詳細なデータが必要とされている。
本研究では、現場観測に基づく春季ブルーム時の海氷融解水を考慮した栄養物質環境と春季ブルームの関係を明らかにすることを目的とし、2021年4月11日から5月1日にかけて南部オホーツク海において新青丸 (KS-21-6次航海; JAMSTEC/東大大気海洋研) で観測を行った。56測点でCTDセンサーにより各種パラメータの鉛直プロファイルを取得し、内23測点で酸洗浄したNiskin-X採水器(12 L)を用いてクリーン採水を行った。また、曳航体を用い海洋表面(1.5~3 m)において連続的なクリーン採水を行った。解析にはCTDセンサーから得た塩分、水温、密度データ、海水サンプルの化学分析により得られた主要栄養塩濃度(NO3+NO2、NO2、NH4、PO4、Si)、Fe濃度、クロロフィルa(Chl-a)濃度、溶存酸素濃度、δ18Oデータを利用した。Fe濃度は、全Fe(TDFe;未ろ過)、溶存Fe(DFe;<0.2 µm)について海水中超微量Fe濃度分析装置 (Kimoto Electric、EN-701)を用いたキレート樹脂カラム濃縮化学発光検出法(Obata et al., 1997; 1993)で分析した。
観測海域の表層混合層(0–30 m)には塩分32.1の低塩分水、その下層(30–300 m)には結氷温度(-1.8℃)に近い低温の水塊が分布していた。過去の知見から結氷温度に近い低温の水塊は東サハリン海流(ESC)(Itoh and Ohshima, 2000)起源と考えられた。表層混合層の低塩分化は、観測海域付近に主要な河川が存在せず陸水の供給によるものではないこと、海氷の後退から観測開始までの降水量では低塩分化が説明できないことから、海氷融解水と表層海水の混合によると考えられた。本研究と先行研究(Yamamoto et al., 2001; Toyota et al., 2007)におけるδ18O と塩分の観測値を用いたマスバランス式により観測海域の表層混合層への海氷融解水の寄与を推定すると海氷融解水は海水の1.0–3.6%(平均2.2%)を占めていた。表層混合層がESC水と海氷融解水の混合により形成されると仮定し、本研究で推定された表層混合層への海氷融解水の寄与とKanna et al.(2014)で報告された海氷中のFe濃度を用いて海氷からESC水へのFeの付加を推定した。推定の結果、DFeではESC水の濃度を0.02-0.08 nM(平均0.05 nM)増加させるにすぎないが、TDFeは海水中の濃度を7.0–25.1 nM(平均15.0 nM)増加させた。海氷融解水の影響が強くみられる表層では、植物プランクトンの存在量の指標とされるChl-a濃度が2.6-19.0 mg m-3、平均9.0 mg m-3と高い値を示し、春季ブルームが発生していた。またNH4以外の主要栄養塩と植物プランクトンの成長に重要とされる微量金属元素のFeは低い濃度が観測されたことから、主要栄養塩やFeはブルーム中に植物プランクトンに取り込まれたことが示唆された。
本研究では、現場観測に基づく春季ブルーム時の海氷融解水を考慮した栄養物質環境と春季ブルームの関係を明らかにすることを目的とし、2021年4月11日から5月1日にかけて南部オホーツク海において新青丸 (KS-21-6次航海; JAMSTEC/東大大気海洋研) で観測を行った。56測点でCTDセンサーにより各種パラメータの鉛直プロファイルを取得し、内23測点で酸洗浄したNiskin-X採水器(12 L)を用いてクリーン採水を行った。また、曳航体を用い海洋表面(1.5~3 m)において連続的なクリーン採水を行った。解析にはCTDセンサーから得た塩分、水温、密度データ、海水サンプルの化学分析により得られた主要栄養塩濃度(NO3+NO2、NO2、NH4、PO4、Si)、Fe濃度、クロロフィルa(Chl-a)濃度、溶存酸素濃度、δ18Oデータを利用した。Fe濃度は、全Fe(TDFe;未ろ過)、溶存Fe(DFe;<0.2 µm)について海水中超微量Fe濃度分析装置 (Kimoto Electric、EN-701)を用いたキレート樹脂カラム濃縮化学発光検出法(Obata et al., 1997; 1993)で分析した。
観測海域の表層混合層(0–30 m)には塩分32.1の低塩分水、その下層(30–300 m)には結氷温度(-1.8℃)に近い低温の水塊が分布していた。過去の知見から結氷温度に近い低温の水塊は東サハリン海流(ESC)(Itoh and Ohshima, 2000)起源と考えられた。表層混合層の低塩分化は、観測海域付近に主要な河川が存在せず陸水の供給によるものではないこと、海氷の後退から観測開始までの降水量では低塩分化が説明できないことから、海氷融解水と表層海水の混合によると考えられた。本研究と先行研究(Yamamoto et al., 2001; Toyota et al., 2007)におけるδ18O と塩分の観測値を用いたマスバランス式により観測海域の表層混合層への海氷融解水の寄与を推定すると海氷融解水は海水の1.0–3.6%(平均2.2%)を占めていた。表層混合層がESC水と海氷融解水の混合により形成されると仮定し、本研究で推定された表層混合層への海氷融解水の寄与とKanna et al.(2014)で報告された海氷中のFe濃度を用いて海氷からESC水へのFeの付加を推定した。推定の結果、DFeではESC水の濃度を0.02-0.08 nM(平均0.05 nM)増加させるにすぎないが、TDFeは海水中の濃度を7.0–25.1 nM(平均15.0 nM)増加させた。海氷融解水の影響が強くみられる表層では、植物プランクトンの存在量の指標とされるChl-a濃度が2.6-19.0 mg m-3、平均9.0 mg m-3と高い値を示し、春季ブルームが発生していた。またNH4以外の主要栄養塩と植物プランクトンの成長に重要とされる微量金属元素のFeは低い濃度が観測されたことから、主要栄養塩やFeはブルーム中に植物プランクトンに取り込まれたことが示唆された。