日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS18] 海洋化学・生物学

2022年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:三角 和弘(一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 )、コンビーナ:川合 美千代(東京海洋大学大学院海洋科学研究科)、座長:三角 和弘(一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部)、川合 美千代(東京海洋大学大学院海洋科学研究科)

16:30 〜 16:45

[AOS18-05] 生物地球化学的変動から見る北太平洋亜熱帯モード水の分布過程

*小野 恒1、石井 雅男1笹野 大輔2 (1.気象庁気象研究所、2.気象庁)

キーワード:亜熱帯モード水、全炭酸濃度、栄養塩、AOU、等密度面、10年規模変動

1. はじめに
北太平洋の亜熱帯モード水(STMW)は、黒潮続流(KE)の南側で冬季の鉛直混合によって形成され、黒潮再循環によって亜熱帯循環北西部に広く分布している。そのSTMWの形成量は、KE流路の安定・不安定に対応して10年規模で変動することが知られている(Oka et al., 2015)。また、気象庁の東経137度線では、STMW内の生物地球化学パラメータが、KE流路の安定性に対応してSTMWの形成量と共に10年規模で変動していることも明らかとなった(Oka et al., 2019)。このような変動は、STMW形成が強まるKE 安定期には、相対的に高酸素・低全炭酸濃度(DIC)のSTMWの海洋内部への供給増加によって見かけの酸素消費量(AOU)やDICが低下する反面、KE不安定期にはそうしたベンチレーションが弱まるために、生物活動(有機物の分解)の寄与が顕著になり、AOUやDICが上昇したためと考えられている。
今回、東経137度線で見られた上記の様な変動が、亜熱帯循環北西部の広範囲に分布するSTMW内でも見られるか、またSTMW内の生物地球化学パラメータやその変動に東西の違いが見られるかを調べたので報告する。

2. データと手法
GLODAP v2に収録されている亜熱帯循環北西部の東経120−180度における1992−2020 年の観測データを使用し、塩分35で規格化した DIC(nDIC)、見かけの酸素消費量(AOU)、リン酸塩、硝酸塩+亜硝酸塩、水温、塩分それぞれについて、秋間法を用いてポテンシャル密度 0.1σθ毎のデータを作成した。本研究では、その中でもSTMWの分布する25.4σθの等密度面について、北緯20−30度における冬季を除いた各年の平均値を求め、その時系列を解析した。さらに、STMW分布域の東西の違いを調べるため、東経120−180度の時系列データを東西4つの経度帯に分けた。

3. 結果と考察
STMWが分布する東経120−180度の東西全ての経度帯において、ポテンシャル密度25.4σθの生物地球化学パラメータおよび水温・塩分は、KE流路の安定性に対応した数年から10年規模の変動を示した(添付図)。このことは、KE流路の安定性に伴うSTMW形成量変動の影響が、東経137度線だけではなく、STMW分布域全体にも同様に及んでいることを表している。また、生物地球化学パラメータの値には東西で明らかな差が見られ、西側ほど高くなる傾向を示した(例えば、東経130度以西では東経160度以東よりAOUが約20 μmol/kg、硝酸塩+亜硝酸塩で約2 μmol/kg高かった)。このことは、新たに形成されるSTMWの方が相対的にAOUや栄養塩が低いことを考慮すると、東側に分布しているSTMWの方が形成から日の浅いより若い水塊(STMW)を多く含んでいることを示している。さらに、水温および塩分の時間変動について、東側で1−2年程度早い位相のずれも見られた。以上より、本研究の結果は、KE南側で形成されたSTMWが、有機物分解の影響を受けながら黒潮再循環によって1−2年程度の歳月をかけてSTMW分布域の東側上流から西側下流へ輸送されるというプロセスを、STMWの生物地球化学的な変動の面から示している。

添付図は、北緯20−30度で平均した4−12月の等密度面25.4σθにおける(a) nDIC、(b) リン酸塩、(c) 硝酸塩+亜硝酸塩、(d) AOU、(e) ポテンシャル水温、および(f) 塩分の時系列を表す。エラーバーは標準偏差、色は東経120−180度の各経度帯を示し、灰色の塗りつぶし期間は、Qiu et al., 2020を基にしたKE不安定期を、無色の期間はKE 安定期を表す。