日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS18] 海洋化学・生物学

2022年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:三角 和弘(一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 )、コンビーナ:川合 美千代(東京海洋大学大学院海洋科学研究科)、座長:三角 和弘(一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部)、川合 美千代(東京海洋大学大学院海洋科学研究科)

16:45 〜 17:00

[AOS18-06] 北太平洋における過去半世紀の海洋貧酸素化に対する観測データセットとCMIP5,6モデルの比較

*阿部 佑美1見延 庄士郎1 (1.北海道大学)


キーワード:北太平洋亜寒帯循環、オホーツク海

全球の溶存酸素量が減少する現象である海洋貧酸素は地球温暖化によって進行する.IPCC第6次報告書では観測データにおいて1970年から2010年までの全球海洋の表層から1000 mまでで0.5%から3.3%の溶存酸素の減少が報告されている.特に北太平洋における溶存酸素減少は全球海洋の中でも特に大きいことがScmidtko et al. (2017)で示されている.北太平洋における溶存酸素の変動は10年ごとの変動が支配的であり,地球温暖化だけでなく自然の気候変動も溶存酸素変動に影響を与えていることが示唆されている(Ito et al, 2018, Stramma et al, 2020).また地球温暖化に伴ってオホーツク海周辺の水塊形成の減少が北太平洋西部の溶存酸素減少に関与していることが示唆されている(Nakanowatari et al.,2007).
複数モデル平均(MME)では自然の気候変動は検出できない.またMMEの溶存酸素トレンドは,各モデルの溶存酸素トレンドパターンの特徴を打ち消し,結果として溶存酸素の減少を観測値よりも過小評価してしまう.したがって本研究では,CMIP5/6モデルの北太平洋における溶存酸素減少の時空間構造を明らかにし,CMIPモデルと観測データとの関係を明らかにすることを目的とする.
観測データセットはIto et al. (2017)で使用された3次元格子化海洋溶存酸素データセットを使用した.水平解像度は緯度経度1度,鉛直層は0-1000 mまでの47層である.解析期間は溶存酸素濃度の観測データの豊富な1958年から2010年とした.数値モデルはCMIP5の10モデル,CMIP6の10モデルの合計20モデルを使用した.いずれも第一アンサンブルである. モデルの溶存酸素量のトレンドの強弱とある特定の空間パターンをもたらすメカニズムとに関係があるのかを調べるために,鉛直平均したMMEからの偏差の溶存酸素濃度のトレンドについてモデル間EOF解析を行った.モデル間EOF解析とは,モデル間で共通の空間パターンとその空間パターンのモデル毎の振幅を表すmodel loadingを求めるものである.モデル間EOF解析によって特定の空間パターンを抽出できた場合,特定の空間パターンをもたらすメカニズムの強弱とモデルにおける溶存酸素量トレンドの強弱との関係を明らかにすることができる.
北太平洋において観測データセットは-4.54×1012 mol/yearの溶存酸素減少を示した.MMEの溶存酸素減少トレンドは観測データセットに比べて小さく,-1.52×1012 mol/yearであった.観測データセットと同程度の溶存酸素量の減少トレンドを示したモデルは2つ存在し,7つのモデルは観測データセットの半分以下の減少トレンドを示した.一方で5つのモデルは増加トレンドを示した.これらのモデル毎の溶存酸素量トレンドの強弱と特定のメカニズムとの関係を調べるために鉛直平均したMMEからの偏差の溶存酸素濃度のトレンドについてモデル間EOF解析を行い,その結果モデル間の主要な空間パターンとして亜寒帯循環域の,特にオホーツク海付近において強い溶存酸素減少トレンドが分布していることが明らかになった.この空間パターンの各モデルの振幅を示すmodel loadingと溶存酸素量トレンドとの相関は-0.87と非常に高い値を示した.また観測データセットについてこのEOF第一モードの空間パターンに対応するloadingを計算した.このEOF第一モードのloadingと観測データセットの溶存酸素量トレンドとの比をとることで,観測データセットにおいて溶存酸素減少をもたらす要因のうち,EOF第一モードで表されるメカニズムの寄与率を求めることができる.その結果EOF第一モードの空間パターンをもたらすメカニズムは観測データセットの溶存酸素減少の三分の二を説明することが明らかになった.この結果はオホーツク海付近における溶存酸素減少が,北太平洋全体の溶存酸素量の減少に大きく関係していることを示唆している.