11:00 〜 13:00
[AOS18-P01] 超深海に生息する端脚類カイコウオオソコエビにおける臭素濃集
キーワード:深海生物、カイコウオオソコエビ、臭素、SEM/EDS
深海極限環境に生息する生物は、低温、高圧、貧栄養な環境に適応するため、特異な進化を遂げてきた。特に、6000m以深の超深海では、水圧の影響が大きいために大型生物の種類は極端に減少する。その中でも、超深海に生息するヨコエビの一種であるカイコウオオソコエビHirondellea gigasは、太平洋の海溝に広く生息する大型生物の一種であり、深海極限環境に適応するために2種類の特徴を持つと考えられてきた。一つには、容易に消化できる餌の少ない深海で栄養を摂取するために進化したと考えられる特殊なセルラーゼで、これを利用して深海に沈降してきたセルロース等の多糖を摂取していると考えられている。もう一つは、炭酸カルシウムが溶解する深度である炭酸塩補償深度以深でも方解石からなる外骨格を保持する手法である。先行研究として、走査電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型X線分析(EDS)、および溶液実験により、外骨格表面にゲル状アルミニウム化合物があることが推定されている。
しかしながら、我々は電験観察の結果に疑義があることを発見し、房総三重会合点にて新規に採取したカイコウオオソコエビ(図a)を用い、凍結置換固定した樹脂包埋切片並びに解剖後t-ブタノール凍結乾燥した組織片を用いて元素分布に関する詳細な分析を行った。その結果、アルミニウムは外骨格に含まれておらず、マグネシウムが含まれていること、並びにカイコウオオソコエビの各部位に存在する剛毛、特に食道前に存在する胃咀嚼器表面に臭素が特異濃集していることが明らかとなった(図b, c)。特に、臭素とアルミニウムはEDS分析において近接したX線エネルギーを与える上、アルミニウムはSEMチャンバーや試料台等に広く存在する。先行研究では主に後者由来のアーティファクトがカイコウオオソコエビの外骨格特有のものであると誤認したと考えられる。
本講演では、胃咀嚼器を含めた体表および体内における臭素濃集および外骨格におけるマグネシウム共存について議論するとともに、SEM/EDSによる生物組織分析におけるアーティファクトについて概説する。
しかしながら、我々は電験観察の結果に疑義があることを発見し、房総三重会合点にて新規に採取したカイコウオオソコエビ(図a)を用い、凍結置換固定した樹脂包埋切片並びに解剖後t-ブタノール凍結乾燥した組織片を用いて元素分布に関する詳細な分析を行った。その結果、アルミニウムは外骨格に含まれておらず、マグネシウムが含まれていること、並びにカイコウオオソコエビの各部位に存在する剛毛、特に食道前に存在する胃咀嚼器表面に臭素が特異濃集していることが明らかとなった(図b, c)。特に、臭素とアルミニウムはEDS分析において近接したX線エネルギーを与える上、アルミニウムはSEMチャンバーや試料台等に広く存在する。先行研究では主に後者由来のアーティファクトがカイコウオオソコエビの外骨格特有のものであると誤認したと考えられる。
本講演では、胃咀嚼器を含めた体表および体内における臭素濃集および外骨格におけるマグネシウム共存について議論するとともに、SEM/EDSによる生物組織分析におけるアーティファクトについて概説する。