日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS19] 沿岸域における混合,渦,内部波に関わる諸現象

2022年5月24日(火) 15:30 〜 17:00 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:増永 英治(Ibaraki University)、コンビーナ:永井 平(水産研究教育機構)、堤 英輔(東京大学大気海洋研究所)、座長:増永 英治(Ibaraki University)、永井 平(水産研究教育機構)、堤 英輔(東京大学大気海洋研究所)

16:30 〜 16:45

[AOS19-05] 潮汐によって維持される底層懸濁層内の粒子の凝集とその分布に関する基礎的数値実験

*西野 圭佑1吉川 裕2 (1.一般財団法人 電力中央研究所、2.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:底層懸濁層、乱流、懸濁粒子、平均粒径

沿岸河口域における堆積土砂の再懸濁・移流過程は陸域から流入する物質を外洋へと拡散する過程の1つであり,沿岸域の環境と密接に関連している.懸濁粒子による物質輸送量について議論するためには,まずはそれらの過程について詳細に理解することが必要である.とりわけ懸濁粒子の粒径はその沈降速度や表面積を決定し粒子の動態を左右する重要なパラメータであるため,粒径分布に着目した観測が行われている(例えば古市ら,2017).一方で輸送機構について明らかにするため数値実験も行われている(e.g., Simionato and Moreira, 2018)が,底層懸濁層において粒径に大きく影響する凝集過程についてはいまだ十分に考慮されていないと考えている.
そこで本研究では,乱流によって巻き上げられた懸濁粒子の挙動について,乱流等による凝集過程も考慮することで物質輸送量をより精度よく見積もることを大きな目的とする.今回はそのための基礎的知見として,凝集を考慮した場合に底層懸濁層内での粒子分布が背景流にどのように応答するかを調査した.乱流を精度よく表現するため,流体モデルにはLESモデルを用いた.また粒子モデルにはRiechelmann et al. (2012)で用いられたモデルを改良したものを用いた.このモデルではLagrange的に運動する粒子群を追跡し,互いに接近した粒子群についてその粒径や粒子数を変化させることにより凝集を表現する.粒子群の運動はLESで計算された背景流による移流と自重による沈降の線形和と近似した.移流速度差,沈降速度差およびブラウン運動を凝集素過程として考慮し,それぞれ凝集カーネル(e.g., Burd and Jackson, 2009)を用いてパラメタライズした.
 潮汐による底層乱流を想定し,鉛直に温度勾配をもつf面上のモデル海洋の全体にx方向に振動する半日周期の体積力を与えることで流れを駆動した.モデル海洋は矩形とし,水平境界は周期/上面は滑り/下面は粘着境界とした.領域下面から懸濁粒子(密度2 g/cm3)を模した一定粒径の粒子群を一定の数フラックスで流入させた.流入した粒子群はその後移流され凝集しつつ,再び沈降して領域下面に着底する.着底した粒子群は即座に取り除き,乱流・粒子分布がともに統計的に定常化するまで実験を行った.流入させる粒子群の粒径を10μm,30μmの2種類に,また潮汐流の振幅を50cm/s,25cm/sの2種類に変化させた実験を行った.
その結果,凝集を考慮した場合には流体中に滞留する粒子の平均粒径が増大する一方で,懸濁粒子数が減少した.これらの変化は総合して懸濁粒子の総表面積や総体積の増大を引き起こしており,懸濁粒子による物質輸送量に対して大きな影響を及ぼすものと考えられる.また粒子数や平均粒径は潮汐流速の絶対値と同じ周期で振動し,その時間平均値は潮汐の振幅や流入粒径によって変化した.背景潮汐と粒子数・平均粒径の位相差は流入粒径によって大きく異なっていた.このことから流入粒径の違いは粒子分布の,背景流への応答時間にも影響しているものと考えられる.
以上の結果から,凝集過程を考慮することにより,粒子による物質輸送量の見積もりに変化が出る可能性が示唆された.
そのほか詳細な結果や機構への考察については講演時に述べる.