日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS19] 沿岸域における混合,渦,内部波に関わる諸現象

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (9) (Ch.09)

コンビーナ:増永 英治(Ibaraki University)、コンビーナ:永井 平(水産研究教育機構)、堤 英輔(東京大学大気海洋研究所)、座長:増永 英治(Ibaraki University)、永井 平(水産研究教育機構)、堤 英輔(東京大学大気海洋研究所)

11:00 〜 13:00

[AOS19-P01] 沿岸ー外洋移行帯として見た豊後水道の流動と混合

*堤 英輔1郭 新宇2吉江 直樹2、董 孟洪3、遠藤 貴洋4伊藤 幸彦1 (1.東京大学大気海洋研究所、2.愛媛大学沿岸環境科学研究センター、3.愛媛大学大学院理工学研究科、4.九州大学応用力学研究所)

キーワード:乱流混合、内部波、地形性渦、豊後水道、沿岸-外洋移行帯

豊後水道は九州と四国の間に位置する平均水深約70mの水路であり、半閉鎖性海域で陸域の影響が大きい瀬戸内海と、外洋としての性格が強い四国海盆の黒潮域の両方の水塊・流動の影響を受けるため、沿岸域と外洋域の移行帯と見ることができる。豊後水道では黒潮系水の波及現象である急潮や黒潮亜表層水の底層への侵入現象である底入り潮が豊後水道の流動や環境に影響することが知られており、従来からこのような沿岸-外洋間の水塊交換過程が研究され、豊後水道内の潮汐混合が急潮と底入り潮の発生に関わると考えられてきた。しかし、豊後水道の混合現象については現場観測による評価が極めて少なく、現在でも実態は明らかでない。
本研究では、沿岸―外洋移行帯の海水・物質交換過程の理解を見据え、豊後水道の潮汐混合についての実態を明らかにすることを目的として、2012年7-9月、2016年8月、2017年8月、2021年7月に豊後水道の様々な場所で乱流微細構造の調査を実施した。調査は2012年7月については広島大学生物生産学部練習船「豊潮丸」、その他は愛媛大学沿岸環境科学研究センターの調査練習船「いさな」による航海で実施した。微細構造プロファイラによる乱流と水質の計測及び船舶搭載の音響ドップラー流速計による流速観測の計測を実施した。また、多くの調査では採水サンプル分析や光学式センサーによる硝酸塩濃度の計測も実施した。
観測の結果、豊後水道の混合強度には空間的に大きな違いがあることが明らかとなった。北部の海峡 (豊予海峡)内では強い潮流に起因して10−3–10−1 m2 s−1 の鉛直拡散係数が得られ、海峡部周辺の斜面上でも10−4–10−2 m2 s−1 の値が得られた。豊後水道中東部の日振島の島影では10−4–10−2 m2 s−1の値が得られた。豊後水道中央南部や北東部(宇和海)では、鉛直拡散係数は10−5–10−3 m2 s−1と海峡部や島影域に比べて1–2オーダー小さかった。このような鉛直拡散が比較的弱い海域では、海底境界層内部やその上部密度躍層内の限定的な層で乱流混合が生じていたが、海峡域や島影域では乱流混合は中層の広い範囲で密度逆転を伴って生じていた。また、豊予海峡南部に形成される潮汐フロント域では、表層のフロント周辺でも密度逆転を伴う10−3 m2 s−1 程度の鉛直拡散が見られた。これらの観測結果から、豊後水道における強大な混合の発生には、従来考えられてきた海底境界層乱流の他に、海峡域の強い潮流と急峻な地形で生じる内部波、島影で生じる地形性渦、及び潮汐フロントに関連して生じる不安定が重要である可能性が示唆された。