日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS21] 全球海洋観測システムの現状・成果と将来:ニーズへの適合と発展

2022年5月24日(火) 13:45 〜 15:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:細田 滋毅(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、コンビーナ:増田 周平(海洋研究開発機構)、藤井 陽介(気象庁気象研究所)、コンビーナ:藤木 徹一(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:藤井 陽介(気象庁気象研究所)、細田 滋毅(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

13:50 〜 14:05

[AOS21-01] OneArgo:その背景と意義、そして課題

*須賀 利雄1,2 (1.東北大学 大学院理学研究科、2.海洋研究開発機構)

キーワード:アルゴ、BGCアルゴ、Deepアルゴ、全球海洋観測システム、国連海洋科学の10年

OneArgoとは、外洋域の上層2000mの水温・塩分を計測するCore Argoのフロート観測網を、極域や縁辺海を含み、海底までの全層をカバーする真に全球的で、生物地球化学(BGC)変数も計測する多分野観測網に変換しようという計画であり、その結果として構築される観測網の名称でもある。より正確には、(1)開始当初には対象海域としていなかった南北60度より高緯度(季節海氷域を含む)と縁辺海に観測網を広げ、熱帯域や西岸境界流付近のフロート密度を倍増させようというCore Argoの拡張、(2)海面から海底までの水温・塩分を計測しようというDeep Argoの構築、(3)6つのBGC変数(酸素、硝酸塩、pH、クロロフィルa、懸濁粒子、下向き放射照度)を計測しようというBGC Argoの構築を、一体として進めようというのがOneArgoである。3つの「パート」は、準リアルタイムで自動品質管理済みデータを公開し、一定期間後に高度な品質管理を施したデータを公開する強力なデータシステムを共有する。さらに重要なのは、Deep ArgoフロートもBGC ArgoフロートもCoreミッション、すなわち10日に1回の海面から深度2000mまでの水温・塩分観測を担い、Core Argo観測網の拡張に貢献するという点である。つまり、OneArgoは、単にCore Argo、Deep Argo、BGC Argoを足し合わせるのではなく、それらを融合させて一つの統合された観測網として構築しようとしている。
 OneArgoは、衛星観測やGO-SHIPなど全球海洋観測システムの他の現場観測ネットワークとシームレスに統合され、オペレーショナルな再解析や予報能力の向上に貢献し、物理・生物地球化学・生態系のパラメータによる気候システムの状態と変動性の評価を可能にする。また、これまでにない広範な基礎研究を可能にすると期待される。
 なぜOneArgoなのか?理由は明白で、3つの観測網を別々に構築・運用するよりもはるかに経済的だからである。コストの面から、Core、Deep、BGCの3つのミッションを実現するためには、OneArgoという選択しかなかったと言える。しかし、一体として効率的に構築したとしても、OneArgoの維持には、従来のCore Argoの3倍の費用がかかると見積もられている。OneArgo構築の予算はまだ確保されておらず、ましてや、持続的な財源のめどは全く立っていない状況である。また、ミッション間のバランスをとりながら、観測網を構築・維持するには、Core Argoとは比較にならないほど複雑な調整を必要とする。さらに、データシステムの複雑さと作業負担の著しい増加への対応も大きな課題と言える。講演では、これらの課題にOneArgoがどのように取り組もうとしているかについても触れる。