13:45 〜 14:00
[AOS22-01] 瀬戸内海・志度湾における近年の海域環境変化と植物プランクトンの応答
瀬戸内海の各海域では近年,溶存無機態窒素(DIN)濃度の経年的低下傾向が相次いで報告されている(低栄養化)。海域の低栄養化は,植物プランクトン量の減少,ひいては有用魚介類の減産を生む可能性がある。そのため,水産学上注目を集める現象となっている。香川県沿岸の志度湾は,備讃瀬戸に隣接する約20 km2の半閉鎖性内湾である。この湾では水産養殖が盛んに行われており,特に,養殖カキの収量は県全体の半分前後を占めている。本発表ではこの志度湾に着目し,2011年以降の水質環境(光と栄養塩関連項目)の変化を定量的に明らかにすることを試みた。さらに,水質環境の変化が植物プランクトン,さらには養殖カキへ与える影響について予備的に検討した。
2011年1月から2021年12月,湾央部の定点で水温,塩分,水柱平均光消散係数,栄養塩濃度,クロロフィルa(Chl-a)濃度を月1-2回の頻度で測定した。また,得られた測定値を,2000年代の値(帰山ら,2011)と比較した。加えて2021年7月と10月には,現場表層水とNO3--Nを人為添加した表層水(+1-30 µM DIN)を用いて, DIN濃度の変化が植物プランクトン群集の光合成速度へ与える影響を実験的に調べた。なおこの際,表層水には溶存無機態リン(DIP)とケイ酸(DSi)を予め過剰(各々3 µM, 50 µM)に添加した。
2011年以降の志度湾のDIN濃度は,測定値全体の65%が1 µM以下の値を示していた。栄養塩組成比はほぼ常にN/P<16かつSi/N>1を示し,組成比の点からみると最不足栄養塩はDINであると判断された。各年の測定値に着目すると,年間中央値は経年的に漸減する傾向があり, 2011年に最高値を記録した一方,2021年に最低値を示していた。今回得た2011-21年の各月平均DIN濃度は,2002-08年の平均値(帰山ら,2011)に比して,ほぼ全ての月で低下していた。従って,志度湾では少なくとも2000年代以降,DIN濃度が減少し続けている可能性が示された。Chl-a濃度については,2011年以降の濃度低下を示す傾向は認められなかった。一方,2021年7月と10月に実施した現場培養実験の結果をみると,現場植物プランクトン群集の光合成活性(gC gChl-a-1 d-1)はDINの人為添加により増加する傾向を示した。従って,近年の志度湾では植物プランクトン生物量(gChl-a m-2)に顕著な変化がないものの,一次生産量(gC m-2 d-1)は漸減している可能性が考えられる。香川県海域のカキ収量は,近年減少傾向にある。これには一因として,DIN減少に伴う一次生産量の低下が関与しているかもしれない。
2011年1月から2021年12月,湾央部の定点で水温,塩分,水柱平均光消散係数,栄養塩濃度,クロロフィルa(Chl-a)濃度を月1-2回の頻度で測定した。また,得られた測定値を,2000年代の値(帰山ら,2011)と比較した。加えて2021年7月と10月には,現場表層水とNO3--Nを人為添加した表層水(+1-30 µM DIN)を用いて, DIN濃度の変化が植物プランクトン群集の光合成速度へ与える影響を実験的に調べた。なおこの際,表層水には溶存無機態リン(DIP)とケイ酸(DSi)を予め過剰(各々3 µM, 50 µM)に添加した。
2011年以降の志度湾のDIN濃度は,測定値全体の65%が1 µM以下の値を示していた。栄養塩組成比はほぼ常にN/P<16かつSi/N>1を示し,組成比の点からみると最不足栄養塩はDINであると判断された。各年の測定値に着目すると,年間中央値は経年的に漸減する傾向があり, 2011年に最高値を記録した一方,2021年に最低値を示していた。今回得た2011-21年の各月平均DIN濃度は,2002-08年の平均値(帰山ら,2011)に比して,ほぼ全ての月で低下していた。従って,志度湾では少なくとも2000年代以降,DIN濃度が減少し続けている可能性が示された。Chl-a濃度については,2011年以降の濃度低下を示す傾向は認められなかった。一方,2021年7月と10月に実施した現場培養実験の結果をみると,現場植物プランクトン群集の光合成活性(gC gChl-a-1 d-1)はDINの人為添加により増加する傾向を示した。従って,近年の志度湾では植物プランクトン生物量(gChl-a m-2)に顕著な変化がないものの,一次生産量(gC m-2 d-1)は漸減している可能性が考えられる。香川県海域のカキ収量は,近年減少傾向にある。これには一因として,DIN減少に伴う一次生産量の低下が関与しているかもしれない。