日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS22] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2022年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:高橋 大介(東海大学)、コンビーナ:古市 尚基(水産研究・教育機構 水産技術研究所)、山口 一岩(香川大学)、コンビーナ:森本 昭彦(愛媛大学)、座長:高橋 大介(東海大学)、古市 尚基(水産研究・教育機構 水産技術研究所)、山口 一岩(香川大学)、森本 昭彦(愛媛大学)

15:45 〜 16:00

[AOS22-08] 諫早湾における潮流の経年変動と底層溶存酸素濃度への影響

*速水 祐一1、押川 英夫1、田井 明2 (1.佐賀大学、2.九州大学)

キーワード:有明海、貧酸素水塊、潮流、月昇交点位置運動、経年変化、溶存酸素

有明海は日本国内で最も大きな潮汐を有する海域である。有明海で最も卓越する潮汐分潮はM2分潮であり、M2分潮の経年変化には月昇交点運動による18.6年周期変動が卓越する。一方で、有明海奥部・諫早湾では毎年夏季に貧酸素水塊が発生し、サルボウなどの二枚貝漁業に大きな影響を与えている。これらの貧酸素水塊は密度成層と潮汐混合の影響を強く受けており、潮汐混合の弱い小潮時に貧酸素化が進行し、大潮時には緩和される。こうしたことから、月昇交点運動は底層の溶存酸素濃度に影響し、経年的に潮流が弱まると、成層が強まって底層溶存酸素濃度が減少する可能性がある。
 そこで本研究では、潮汐・潮流の経年変動が底層溶存酸素濃度に与える影響を明らかにするために、2013年から2021年の毎年、原則として夏季と冬季の1~2ヶ月間、諫早湾中部~諫早湾口沖の4点(九州農政局の観測櫓付近)の海底に超音波ドップラー流速プロファイラーを設置して、流速の鉛直分布を測定した。測定した流速は鉛直方向に10層のσレイヤーに整理し、海面の影響をうける表層第1層を除いた9層について解析した。また、流速データと比較するために大浦における潮位データ、各観測櫓で九州農政局が自動昇降式水質計で測定している水温・塩分・密度・溶存酸素濃度データを解析した。
 潮汐・潮流は2013年から増加し、2016年にピークとなった後、減少していた。バロトロピックな流速について求めたM2分潮の大きさは、潮位のM2潮成分の大きさと正の相関を持っていた。一方で、夏季観測期間中の底層の溶存酸素濃度平均値は2016年に極小値をとっており、潮流のM2分潮成分の大きさと負の相関があった。これは、研究開始時点の想定とは逆に、潮流が強くなると底層の溶存酸素濃度が下がることを意味する。観測期間中の平均成層強度と潮流のM2分潮成分の相関は弱かったが、測点B5・B6では両者の間に正の相関が見られた(潮流が強まると成層は強化されていた)。発表ではこうした予想外の結果が生じたメカニズムについても示したい。