日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG05] 地球史解読:冥王代から現代まで

2022年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、コンビーナ:加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、コンビーナ:中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、座長:安藤 卓人(島根大学 エスチュアリー研究センター)、小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)

09:15 〜 09:30

[BCG05-02] 中原生界アクリタークの起源生物についての形態学・化学分類学的再検討

*安藤 卓人1原 勇貴2沢田 健2 (1.島根大学 エスチュアリー研究センター、2.北海道大学・理学院)

キーワード:アクリターク、顕微FT-IR、化学分類

中原生代に報告されているパリノモルフ(有機質微化石)のほとんどは起源が不明なアクリタークに分類さている。アクリタークの起源は主に形態学的に推定されており,多くは真核生物のシストなどの分解に抵抗性の高い高分子で構成された真核生物由来の殻・膜組織であると考えられている。新原生代や古生代のアクリタークはより複雑で現生種と全く異なる形態をもつものも多い。一部の種の形態的特徴は渦鞭毛藻シストと類似していることは多いが,発芽口が存在していないなど,起源生物の特定は困難である。その一方,古原生界や中原生界の堆積岩中に産出するLeiosphaeridiaをはじめとするより原始的なアクリタークは形態的特徴に乏しく,むしろ現世表層堆積物から産出する現生種アクリタークと酷似している。化学分類については,FT-IRを用いたアクリタークの高分子分析が行なわれてきた。しかし,高分子組成を用いた化学分類を行なうためには,生体高分子の続成変化への理解と現生種パリノモルフを含めたスペクトルライブラリの作成が不可欠である。本研究では,中原生界堆積岩から産出するアクリタークを含むパリノモルフを形態的特徴によって分類・起源種を再検討し,高分子分析を行なうことによって化学分類法の開発を行なった。
2018年および2019年の7~8月に調査・採取されたグリーンランド北西部に分布する中原生界Qaanaaq層の暗灰色頁岩を用いた。酸処理によって分離したケロジェンを透過・蛍光顕微鏡で観察した。また,ケロジェン中から単離したパリノモルフをATR付き顕微FTIRで分析した。パリノモルフ観察の結果,真核藻類起源と考えられるアクリタークとしてはLeiosphaeridiaSimiaTasmanitesSchizofusaが観察された。これらのアクリタークは,現生種パリノモルフのなかでプラシノ藻ファイコーマ,一部の渦鞭毛藻シスト,接合藻類の接合胞子,真正眼藻の膜組織などと類似している。Leiosphaeridiaは膜厚や直径による詳細な分類が提案されており,上位層準で膜厚の薄い種が卓越した。堆積環境の変化に伴って優勢種が入れ替わったこと可能性がある。一方,群体構造のSynsphaeridiumSquamosphaera,およびフィラメント状のパリノモルフも複数種観察された。群体種は主にアナベナなどの淡水生の窒素固定能をもつシアノバクテリアが形成するアキネートの凝集体と類似し,フィラメント状の種はユレモなどのバクテリアマットを形成するような種の遺骸と類似している。また,上部層にむけてフィラメント状の種が群体種から優勢になっていた。これらのアクリタークの赤外スペクトルはクラスター解析から4つのグループに分類できた。真核生物由来のLeiosphaeridiaと原核生物由来のSynsphaeridiumから得られは異なるグループに分けられ,それぞれ現生種の緑藻類とシアノバクテリアの膜組織のスペクトルと共通点がみられた。また,一部の有機物片(パリノデブリ)は,セルロースを真空電気炉において325℃以上の高温で熱熟成させた生成物とスペクトルが類似していた。したがって,中原生代は現在よりセルラーゼによる生物分解が乏しく生物遺骸の保存性が高い環境であった可能性があり,アクリターク中の高分子も化学分類に重要な情報を保持しているかもしれない。今後,より多くのパリノモルフの高分子データを得ることで,アクリタークの起源生物の理解がすすむと期待される。