日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG05] 地球史解読:冥王代から現代まで

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (30) (Ch.30)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、コンビーナ:加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、コンビーナ:中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、座長:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)

11:00 〜 13:00

[BCG05-P05] CO大気から合成される有機物の生成量を支配する要因の解明

*横山 天河1上野 雄一郎1,2,3 (1.東京工業大学理学院地球惑星科学系、2.東京工業大学地球生命研究所、3.海洋研究開発機構超先鋭研究開発部門)


キーワード:CO大気、光化学、生命起源

初期地球において生命が誕生するには、無機的な環境から持続的に有機物を供給するシステムが必要である。一酸化炭素(CO)を含む還元的な大気では、光化学反応により有機物が生成されることが知られている。そのため、初期大気の光化学反応によりCOから生成する有機物のフラックスが、いかなる条件によって左右されるかを定量的に理解することは、生命起源を研究するうえで非常に重要である。
COとH2Oの光化学反応は以下のように進行する。まず、H2Oが光解離して水素ラジカル(H)と水酸化ラジカル(OH)を生じる。COの一部はOHと反応しCO2になり(CO+OH→CO2+H)、もう一部はHと反応しホルミルラジカル(HCO)になる(CO+H+M→HCO+M, M: 反応の第三体)。そして全ての有機物はHCOを経由して生成されると考えられる。したがって、CO2の生成速度に対するHCOの生成速度比HCO/CO2が最終的な有機物生成量を左右しており、この比が大きくなれば効率よく有機物が生成されると予想できる。化学反応式による見積もりから、生成速度比を変え得る要因として大気全圧と酸化還元状態の2つが考えられる。そこで本研究では、生成速度比HCO/CO2に着目し、(1)大気全圧、(2)水素分圧、(3)水蒸気圧が、有機物総量/CO2をどのように変化させるか実験的に調べた。炭素源がCOのみのガスに紫外線を3時間照射した後、生成した有機酸総量と生成したCO2を計測し、生成速度比R=有機酸総量/CO2を算出した。
実験の結果、大気全圧Ptotal[bar]が高いほど、また、水素分圧PH2[bar]が高いほど、生成速度比Rが大きいことが確認でき、R=(1+0.293PH2)×0.248Ptotal/(Ptotal+0.858)の関係があることが分かった。大気全圧がRを変えた理由は、HCOの生成が三体反応であり、反応速度定数が大気全圧に対して単調増加することに起因している。水素分圧がRを変えた理由は、水素を封入したことでOHの消費反応(H2+OH→H2O+H)が進み、H/OH比が高くなったためと考えられる。水蒸気圧を変化させる実験を行った結果、水蒸気圧が高い方が有機物生成速度は速く、かつ、生成速度比も高いことが示された。高水蒸気圧ではHラジカルの数密度が高いため有機物生成速度は速いと考えられるが、水蒸気圧が生成速度比Rを変えた原因は不明である。
以上の実験結果を基に、大気中でCOが定常状態にある場合の、全球有機物フラックスForgを算出した。その結果、有機物フラックスを最も大きく左右する要因は大気全圧、次いでCO2分圧であることが確認できた。また、Forgは大気全圧に対して単調増加すること、地表面のCO2分圧が0.1 barのときに極大値を取ることが分かった。大気全圧10 bar、CO2分圧0.1 barのときの有機物フラックスは約1×1012 mol/yrと見積もられた。これは、Chyba & Sagan(1992)が見積もった還元的大気での雷放電による有機物フラックス2.5×1011 mol/yrより大きい。以上から、初期大気ではCOの光化学反応が有機物の重要な供給源であったことが示唆された。