日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG05] 地球史解読:冥王代から現代まで

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (30) (Ch.30)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、コンビーナ:加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、コンビーナ:中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、座長:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)

11:00 〜 13:00

[BCG05-P11] 硫黄同位体組成をもとにした白亜紀末隕石衝突後の古環境復元

*藤枝 菜央1丸岡 照幸2西尾 嘉朗3 (1.筑波大学大学院生命地球科学研究群地球科学学位プログラム、2.筑波大学生命環境系、3.高知大学農林海洋科学部)

キーワード:硫黄同位体比、白亜紀ー古第三紀境界、大量絶滅、Stevns Klint、酸性雨、環境変動

白亜紀―古第三紀境界(K-Pg)境界における大量絶滅イベントは巨大隕石衝突直後の環境変動によって引き起こされたと考えられているが、その環境変動の詳細は明らかになっていない[1]。K-Pg境界は親鉄元素に富む粘土層で特徴づけられるが[2]、その層には親鉄元素だけでなく、親銅元素の濃縮を見いだすことができる[3]。K-Pg境界層に含まれる親鉄元素はコンドライト組成を示し、衝突した隕石を由来とすることが知られている[2]。しかし、親銅元素・親鉄元素の比(例えばZn/Ir、As/Ir、Sb/Irなど)はコンドライトの比と比較して1-2桁高い値を示し、K-Pg境界粘土の親銅元素には隕石を由来としない成分が含まれていることを意味している[3]。一方、K-Pg境界層に対して、銅や銀といった親銅元素の濃度は、親鉄元素の濃度と強い相関を示しており、K-Pg境界粘土層の親銅元素は隕石と同時に海洋に供給されたことを示唆する。これらの事実は、隕石由来ではない親銅元素がK-Pg境界での隕石衝突の直後に起きた何らかのプロセスによって供給されたことを意味している。Maruoka et al. [4]は、デンマーク・Stevns KlintのK-Pg境界層において硫化銀とパイライトという硫黄を含む2種類の鉱物に親銅元素が濃縮していることを明らかにした。これら2種類の粒子は隕石衝突直後の環境情報を保存している可能性がある。これらの鉱物はどちらも硫黄を含むため、それらの硫黄同位体比分析を行うことが可能である。堆積岩に含まれる硫黄は様々な成分の混合であるので、その測定のためには、化学処理によりこれらの鉱物に相当する硫黄分画を分離する必要がある。本研究では、Stevns KlintのK-Pg境界層とその下位・上位の地層から得られた試料から、水溶性硫酸態硫黄 (Water Soluble Sulfate、WSS)、酸可溶性硫化物 (Acid Volatile Sulfide、AVS; 硫化銀を含む)、クロム(Ⅱ)還元可能硫黄 (Chromium-Reducible Sulfur、CRS; パイライトを含む)、炭酸塩置換硫酸態硫黄 (Carbonate Associated Sulfate、CAS)という4種の硫黄分画を抽出し、それぞれの硫黄同位体比を測定した。先の研究で親銅元素に富むことを示された硫化銀が含まれているAVSは、試料中の濃度が低く、δ34Sを決めることはできなかった。一方、CASとCRSではK-Pg境界においてδ34Sの負の変位がみられた。このような負の変位は、同じ層において87Sr/86Srが上昇していること[5]を考慮すると、大陸地殻由来硫黄の海洋への流入増加を反映していると考えられる。この硫黄供給の増加は、K-Pg境界での隕石衝突直後に起きた酸性雨によって引き起こされた可能性がある[6]。

参考文献;
[1] Maruoka, 2019, in Yamagishi et al. (eds.), Astrobiology: From the Origins of Life to the Search for Extraterrestrial Intelligence, 303-320. [2] Kyte et al., 1980, Nature 288, 651-656; Schmitz, 1985, Geochim. Cosmochim. Acta 49, 2361-2370; Schmitz, 1988, Geology, 16, 1068-1072; Schmitz, 1992, Geochim. Cosmochim. Acta 56, 1695-1703. [3] Gilmour and Anders, 1989, Geochim. Cosmochim. Acta, 53, 503-511. [4] Maruoka et al., 2020, Geol. Soc. Am. Bull., 132, 2055-2066. [5] Frei and Frei, 2002, Earth Planet. Sci. Lett. 203, 691–708. [6] Maruoka and Koeberl, 2003, Geology 31, 489–492; Maruoka et al., 2002, Geol. Soc. Am. Spec. Pap. 356, 337–344.