日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-GM 地下圏微生物学

[B-GM02] 岩石生命相互作用とその応用

2022年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、コンビーナ:須田 好(産業技術総合研究所)、白石 史人(広島大学 大学院先進理工系科学研究科 地球惑星システム学プログラム)、コンビーナ:福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、座長:白石 史人(広島大学 大学院先進理工系科学研究科 地球惑星システム学プログラム)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)

16:10 〜 16:30

[BGM02-08] 断層湖堆積盆から湧出する深部メタンの起源と表層生態系への影響:糸魚川静岡構造線と中央構造線の交点のカーボンサイクル

★招待講演

*浦井 暖史1高野 淑識1松井 洋平1、岩田 拓記2宮入 陽介3横山 祐典1,3、宮原 裕一2大河内 直彦1、朴 虎東2 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.信州大学、3.東京大学)

キーワード:メタン分子放射性炭素同位体比分析、湧出ガス、溶存無機炭素、Pull-apart basin

糸魚川静岡構造線(ISTL)と中央構造線(MTL)の交点に位置する諏訪湖は,日本で最も活発な断層湖である.一般的に断層湖は水深が深いが,諏訪湖は平均水深4.3m,最大水深6.3mと浅い.これは湖面積の約40倍の集水域(512km2)と31の流入河川を持つため堆積速度が非常に速く,その堆積層は370m以上とされている.諏訪湖の底質は,有機物に富んでおり(TOC ∼5.5wt%),表層堆積物にはメタンが含まれている[1].このメタンは主に表層堆積物中に生息するメタン生成アーキアと呼ばれる微生物によって生産されており,諏訪湖における主要なメタン放出源とされている[1, 2].一方で,堆積盆の深部には膨大なメタンガスが貯蔵されており,商業利用されてきた歴史がある.この深層由来のメタンガスは,現在でも諏訪湖内の数か所で活発な湧出を確認することができる.また,諏訪湖周辺の断層に沿って,上諏訪温泉や下諏訪温泉等の源泉が線的に点在している.温泉水付随ガスのヘリウム同位体比分析の結果,堆積盆以深であるマントル由来の深部ガスが含まれていることが報告されている[3].これらの源泉は諏訪湖内にも点在しており,厳冬期の湖面結氷の形成に物理的な不均質性を与える影響因子となっている[4].

以上をまとめると,諏訪湖には1)表層水圏由来,2)深部堆積層由来,3)マントル由来の3つの起源のメタンが考えられる.本研究では,これらのメタンが水圏生態系内に与える影響について,放射性炭素同位体比を用いた解明を試みた.諏訪湖内で定常的に湧出が確認されるサイトで採取したガスや周辺湖水を分析した結果,メタンや二酸化炭素には放射性炭素がほとんど含まれていなかった(Δ14CCH4 = –989.8 ±0.3‰,Δ14CCO2 = –951.2 ±1.0‰).これは湖底表層の堆積物から放出されるメタン(Δ14CCH4 = +21.7 ±3.8‰)とは明らかに起源が異なることを示している.また,湖水中の溶存無機炭素(DIC)の値は,湧出サイトから離れた湖岸付近でもΔ14CDIC = –100.9 ±3.5‰となり,湖水DICの約10%以上が深部由来の炭素であることが示された.新しい分析手法の応用的展開により[5,6],この深部炭素のシグナルはDICを介して藻類や魚類にも伝搬していることが確認され,メタンを含む深部由来の炭素が湖内生態系の炭素源として利用されている描像を定量的に評価することに成功した.本研究は,JAMSTECと信州大学との共同研究による成果の一部である.

References:
[1] Urai et al. (2021) Detection of planktonic coenzyme factor 430 in a freshwater lake: small-scale analysis for probing archaeal methanogenesis. Prog Earth Planet Sci, 8, 62.
[2] Iwata et al. (2020) Temporal and spatial variations in methane emissions from the littoral zone of a shallow mid‑latitude lake with steady methane bubble emission areas. Agric For Meteorol 295, 108184.
[3] Umeda et al. (2013) Release of mantle and crustal helium from a fault following an inland earthquake. Appl Geochem 37, 134.
[4] Urai et al. (2022) Origin of Deep Methane from Active Faults along the Itoigawa-Shizuoka Tectonic Line between the Eurasian and North American Plates: 13C/12C & 14C/12C Methane Profiles from a Pull-Apart Basin at Lake Suwa. (Submitted).
[5] Kawagucci et al. (2020) Radiocarbon content of carbon dioxide and methane in hydrothermal fluids of Okinawa Trough vents. Geochemical Journal 54, 129-138.
[6] Yokoyama et al. (2019) A single stage Accelerator Mass Spectrometry at the Atmosphere and Ocean Research Institute, The University of Tokyo. Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms 455, 311-316.
メタンサイクルの解説は、高野 淑識・浦井 暖史・金子 雅紀・大河内直彦(2021)補酵素 F430 を経由するメタン生成とメタン酸化の2核種炭素同位体フィンガープリント法の展開:地球深部での炭素循環. Isotope News, No.778, pp.36-40