日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT04] 地球生命史

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (29) (Ch.29)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部)、コンビーナ:生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:本山 功(山形大学理学部)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)

11:00 〜 13:00

[BPT04-P03] ウミガメの骨治癒過程::寄生性カメフジツボ類による現生ウミガメ甲羅に見られる骨損傷部の観察結果を例に

塚田 響1、*ジェンキンズ ロバート2 (1.金沢大学大学院自然科学研究科、2.金沢大学理工学域地球社会基盤学類)

キーワード:Bioerosion

ウミガメ類は“外骨格”的に発達させた甲羅を持つ特徴的な脊椎動物の一群である.ほとんどのウミガメ類では甲羅の直下に肋骨や脊椎骨が層状に広がる骨を持つ.これにより防御力を高まる一方で,岩などへの衝突や被食などによって骨にまで損傷が及ぶ可能性が高い.また,ウミガメの甲羅には寄生フジツボが付着していることがよくあり、フジツボ付着部下にあるウミガメの骨に窪みや穴といった生物浸食が見られることがある。特に寄生フジツボによるウミガメ骨への生物浸食は1個体のウミガメに同時多発していることがある。このように骨損傷リスクが高いウミガメ類は,骨治癒に関して特殊な進化をしている可能性がある.そこで本研究はウミガメ類の骨治癒過程を解明することを目的とした.
 具体的には,高知県室戸市において混獲もしくは座礁したアオウミガメおよびアカウミガメを収集した.体表面の観察後,人体用CTスキャナーを用いてフジツボ付着・埋没位置や骨異常部を検出して切り出し,マイクロCTスキャンによる観察および薄片製作を行った.薄片は実体顕微鏡,偏光顕微鏡,走査型電子顕微鏡を用いて観察した.これらの観察の結果,体表面の状態(フジツボや窪みの有無など)と骨の状態(骨消失部や新たに形成された骨の有無など)から4段階の骨損傷・修復過程に区分した.これを総合的に考えると,ウミガメ類においては,骨損傷部に,周囲の正常組織からコラーゲン繊維が伸長し,伸長したコラーゲン繊維に沿って層状骨が形成・肥厚化して骨損傷部に骨組織が充填されていくことが明らかになった.他の脊椎動物ではコラーゲン繊維の伸長後に線維性骨の形成を経てから層状骨になることが知られており,ウミガメでは線維性骨の形成過程が確認できなかった.コラーゲン繊維の伸長から直接的に層状骨を形成する過程は,骨修復にかかるコストの削減もしくは修復速度の向上などの外的損傷を負いやすいウミガメ類が獲得した形質である可能性がある.