日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-01] 総合的防災教育

2022年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:林 信太郎(秋田大学大学院教育学研究科)、コンビーナ:中井 仁(小淵沢総合研究施設)、小森 次郎(帝京平成大学)、コンビーナ:久利 美和(気象庁)、座長:林 信太郎(秋田大学大学院教育学研究科)、小森 次郎(帝京平成大学)

15:30 〜 15:45

[G01-01] 学校防災のあり方について:現状分析、大学の授業での実践、解決策の提言

*松本 剛1川村 教一2松岡 東香3林 信太郎4、紺屋 恵子5 (1.琉球大学理学部、2.兵庫県立大学、3.清和大学、4.秋田大学、5.海洋研究開発機構)

キーワード:学校防災、教職課程、ハザードマップ

日本地球惑星科学連合(JpGU)教育検討委員会に2021年に設置された防災教育小委員会のうち、大学教育部会では、主として大学の教員養成課程での防災教育を充実し、以て、防災意識の高い、自然災害に際してもあらゆる手段を駆使して児童・生徒の生命を守ることの出来る教員を育成することを目指している。
 学校防災と密接に関わる事案としては、2011年東日本大震災の際に津波によって児童74人と教職員10人が犠牲となり,児童の遺族らが石巻市・宮城県を相手に損害賠償を請求した訴訟が象徴的である。二審の仙台高等裁判所は,「学校は地域住民の防災の平均的な知識・経験に比べて遥かに高い知識・経験が求められる」などと断じ,被告の過失責任を認めた(2018年4月)。最終的に2019年10月に,最高裁判所が二審判決を支持することによって,原告の勝訴が確定した。学校防災の基本原則が判決文に反映されたものと評価される。
 2016年度からは,教員免許状更新講習の中で学校防災に関する講習は、「学校における危機管理上の課題」として,選択必修領域に組み入れられた。併せて、学校防災に関しては、平成31(2019)年度から施行された改正後の教職課程(教員養成課程の学生が必ず履修しなければならない課程)のうち、「教育の基礎的理解に関する科目」の中で、「教育に関する社会的、制度的又は経営的事項(学校と地域との連携及び学校安全への対応を含む。)」を取り扱うことが明記された。しかし現実には、2単位科目として教育社会学を中心とした講義が提供されることが多く、学校安全に関しては1校時程度の時間を割くに留まることが予想される。上記の大川小学校の事例が二度と起こらないような学校防災カリキュラムが、全教員養成課程で確実に提供されているわけではない。防災の専門家が居て実践指導も可能な大学は別として、おそらくどの課程でも、確実に児童・生徒の生命を守る防災教育を提供することは、難しいのが現状であると推察される。
 筆者のうちの一人(松本)は、2021年度の大学の共通教育科目「地球の科学」の中で、トピックス「津波が来る前に高台に逃げろ!」の中で上記大川小学校の事例を取上げ、関連資料を提示した上で、このような状況下で学校教員はどのように行動するべきであったかを学生に考えさせる授業を行った。また、トピックス「ハザードマップを読んでみよう!」の中で、最近は自治体によってはGIS方式のハザードマップが提供され、各自が独自に液状化・津波・高潮・土砂災害・洪水などのハザードマップを作成することが出来るようになったことを紹介し、ハザードマップを自分で作成すること、それを活用して、各種自然災害の際の避難先の選定など、マップをどのように読み解くかの実習を行った。教育学部小学校教育専修1年次学生からは授業の感想として、
 「講義を通じて、災害の危険性や地震のメカニズムを理解したことで、災害は本当にいつ起きるか分からない脅威の要素を持っていることや、私自身がしっかりと情報収集したり、災害に向けて対策を行ったりしなければならないということを学んだ。」
 「子ども達への教育において、教師は災害や大地の動きについては社会科や理科、総合と複数の教科にわたって子ども達に伝えなければならない。ハザードマップを実際に調べたり、大川小学校の事例について考察したりしたことで、幼い小学生たちにどうやって災害のリスクを伝えれば、避難という実践行動へと繋げる学びとなりえるのか、どのような授業づくりが出来るのか等、教員になったらという将来の展望を踏まえて、講義外の時間を使い、自分なりに調べたり、思考したりした。」
 「その調べ学習によって、災害のリスクを伝えるといった教師から児童生徒への一方的なベクトルの授業を行うのではなく、子ども達自身が友人や家族と“災害”のテーマとした話し合いをしたり、ただハザードマップを調べて簡潔に学びを終わらせずに自分たちでハザードマップを作成したり、また町探検を含めて、実際に災害のリスクのある場所や避難場所を身に回ったりと、実践的な活動がより現実的行動に結びつけることができるのだと新たに学ぶことが出来た。」
との声があった。
 教員として赴任する際は、任地でまずはハザードマップや地理院地図などを通して、学校周辺の地理的特性を把握し、たとえ既に防災マニュアルが出来上がっている場合でも、自分自身で学校の周囲を歩いてみて、緊急時にマニュアル通りに行動できるか、情報に漏れは無いかなどを吟味した上で、緊急時の行動の備えを行うことが必要となる。そのためには、教職課程の中で、ハザードマップの読み取りや、それらに基づくフィールドワークなどについても、カリキュラムに加えることが必要となる。上記の事例に基づき、教員養成課程の中で扱うべき学校防災科目の具体的事項を取りまとめ、今後提言していく予定である。