日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-01] 総合的防災教育

2022年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:林 信太郎(秋田大学大学院教育学研究科)、コンビーナ:中井 仁(小淵沢総合研究施設)、小森 次郎(帝京平成大学)、コンビーナ:久利 美和(気象庁)、座長:林 信太郎(秋田大学大学院教育学研究科)、小森 次郎(帝京平成大学)

16:30 〜 16:45

[G01-05] 市民防災教育の現状および課題

*光井 能麻1久利 美和2糸谷 夏実3松本 剛4小森 次郎5 (1.名古屋大学減災連携研究センター、2.気象庁、3.応用地質株式会社、4.琉球大学理学部、5.帝京平成大学)

キーワード:防災教育

日本地球惑星科学連合(JpGU)では、災害・防災関係の諸団体の連携を進め、防災教育の振興を図ることを目的として、教育検討委員会のもとに防災教育小委員会を設置した。本小委員会における活動の一つとして、筆者らは市民を対象とした防災教育の推進に取り組んでいる。初年度である2021年度は、市民防災教育に関する現状について情報を集約し、今後の活動の参考とするため課題を整理した。本発表では、多文化共生社会に関する問題(例えば、日本語を母語としない方への情報提供や、宗教への配慮)や、防災教育における地球科学の伝え方に関する問題について報告する。

日本語を母語としない方々への防災情報は、内閣府(2021)をはじめとする様々な機関・団体から提供されている。その際、情報を多言語対応にする、平易な(やさしい)日本語を用いる、などの配慮がなされていることが多い。このような言語表記に関して、沖縄県宜野湾市(2020)では、台風の情報に関するワークショップが開催された。市内在住で日本語を母語としない人々や、沖縄気象台、宜野湾市、防災関係団体の職員、一般市民が集まって、災害情報を如何にわかり易く表現するかについて皆で考え、議論した結果、災害情報で使用されている難しい用語をやさしい日本語の表現に言い換えるなどの配慮が必要であることが提案された。その際、やさしい表現として教科書などで用いられている表現を参照する、などの方向性が得られた。同市では、同様のイベントが年に複数回開催されており、継続的な活動が行われている。また、東北大学では、児童自身がとっさの判断で危険から身を守るための防災教育教材として開発した「減災アクションカードゲーム」が、ピクトグラムを活用した教材であったことから、留学生向けにアレンジし、活用した事例がある(Kaneko et al., 2018)。
多文化共生社会の別の側面として、防災教育における宗教上の配慮も必要である。Itoya & Yoshimoto (2021)は、コロナ禍におけるムスリム(イスラム教徒)の在宅避難について、ムスリムと日本人による共同参加型ワークショップを実施した。「四面会議システム」というブレインストーミング手法を用いて、問題を共有して防災行動へとつなげる方策を議論した。このような配慮について詳細に検討した事例は少ないため、今後も継続的な議論ならびに実践が望まれる。

上記はいずれも、主に日本人以外を対象とする検討事項であるが、日本人への市民防災教育についても検討すべき問題は多い。ここでは特に、防災教育において地球科学の情報をどのように伝えるべきかという問題に着目する。地球科学の立場から防災教育を推進するにあたっては、学問である地球科学と人々の関心事である災害の関係をどのように示すかが重要であるが、その際、人々の認識における地学現象と災害との隔たりを地球科学者が認識し、それに適した防災教育を行う必要がある。そのため、本発表では、昨年発生した福徳岡ノ場の噴火および、その後漂着した軽石による災害の問題に着目し、公表情報に基づいて事実関係を整理する。福徳岡ノ場の噴火時、2021年8月16日に気象庁が報道発表を行っており、発表資料にも「噴火による浮遊物(軽石等)に注意が必要」と記載されている(気象庁、2021)。一方、この噴火が災害として注目されたのは漂流物(軽石)が漂着した時である。これは、地学現象である火山噴火と、生活に直結した災害である軽石の漂着との時間差によるものであり、今後の検討課題として重要な示唆を与えるものである。
このような「人々の関心事(災害)と地球科学の知識との関係」を市民防災教育に取り入れる一例として、光井(2021)は地震災害を対象として、地球科学を知る意義を「知っていることで災害に対する恐怖を軽減できる」という観点で紹介した。さらに「災害時ではない今現在を大切に生きる」ために、自らのおかれた環境を理解する材料として「世界の中の日本」を地学の視点で提供する試みを行った。例えば、日本が欧州から遠く離れていることが大航海時代以降の近現代史に影響していることや、この距離がプレート運動に伴う大陸の移動で人類の誕生時期に偶然もたらされたことを示し、人々が広い視野で考えるきっかけを地球科学的に提供した。
本発表では、これらの各種活動を踏まえて、今後の市民防災教育のあり方を議論する。

参考文献:
・Itoya, N and H Yoshimoto (2021), 「Yonmenkaigi System Method(YSM) forMuslim」―Thinking about needs for minority victims in multicultural collaboration society during COVID-19 pandemic―, Abstract of The 11th International Conference of the International Society for the Integrated Disaster Risk Management
・Kaneko, R, MS Al Farisi, S Yamada, M Kuri (2018), Evaluation of the Disaster Mitigation Action Card Game for international students in Japan, 東北地域災害科学研究, 54, 279-284
・気象庁(2021)、報道発表資料(令和3年8月16日)、福徳岡ノ場の噴火警報(周辺海域)を切替え、
https://www.jma.go.jp/jma/press/2108/16a/fukutokuokanoba_20210816.html、最終閲覧日2022年2月2日
・光井能麻(2021)、こころで備える地震学 -地震に対する恐怖を軽減し、今日を大切に生きる-、名古屋大学減災連携研究センター第111回げんさいカフェ(2021年2月9日)、
http://www.gensai.nagoya-u.ac.jp/?p=16979、最終閲覧日2022年2月4日
・内閣府(2021)、外国人のための減災のポイント(やさしい日本語と多言語QRコード対応)、http://www.bousai.go.jp/kyoiku/gensai/index.html、最終閲覧日2022年2月2日
・沖縄県宜野湾市(2020)、やさしいことば(にほんご)ワークショップ~みんなで台風にそなえよう!~(2020年2月9日)、https://www.goyah.net/okinawa_event/life/e2ww7w5w8q1ps5z.html、最終閲覧日2022年2月4日