日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

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[G-01] 総合的防災教育

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (22) (Ch.22)

コンビーナ:林 信太郎(秋田大学大学院教育学研究科)、コンビーナ:中井 仁(小淵沢総合研究施設)、小森 次郎(帝京平成大学)、コンビーナ:久利 美和(気象庁)、座長:林 信太郎(秋田大学大学院教育学研究科)、小森 次郎(帝京平成大学)

11:00 〜 13:00

[G01-P03] プラレールを使った緊急地震速報のメカニズム実験ー中学生の災害情報リテラシーの向上を目指して

高沢 伸之2、*林 信太郎1 (1.秋田大学大学院教育学研究科、2.秋田大学教育文化学部)

キーワード:緊急地震速報、プラレール、災害情報リテラシー

緊急地震速報は,気象庁などが全国に展開している地震計で,地震の発生を検知し,地震の発生位置や規模の推定及び伝送を瞬時に行うことにより,地震の強い揺れが到達するよりも早く,地震の揺れが来るという情報を届けるシステムである。緊急地震速報を適切に利活用するためには,緊急地震速報の特性を良く理解し,緊急地震速報を受けた時にとっさに適切な対応行動が出来るよう,日頃から準備しておくことが必要である(気象庁ウェブページより)。
現在使われている5社の中学校理科教科書にはいずれも緊急地震速報にふれている。P波,S波について学習した後,緊急地震速報に関する記述がコラムという形で掲載されている。
緊急地震速報を適切に利用するためには,「緊急地震速報の特性を良く理解」する必要がある。このためには緊急地震速報の実験教材が重要であると講演者らは考える。
そこで,プラレールという身近で,さまざまな家庭にあるだろう素材を活用し,視覚的に緊急地震速報の特性を理解するための,中学生向けの教材を開発した。
実験システムは,プラレールの変速装置付きの車両2台,直線のプラレール(長さ約2m),鈴,スイッチ,電池,電線,電球などである。プラレールの車両としては,秋田新幹線こまちタイプを使用した。この車両は2段階にスピードを変えることができ,高速モードで28cm/s,低速モードで18cm/sである。車両の1台を高速モードにして,P波のモデルとし,低速モードの1台をS波のモデルとする。レールは2列並走させ,P波レールには地震計代わりの鈴をセットする。車両が通過するとこの鈴にぶつかり音が鳴るようになっている。また,スイッチ,電池,電球を電線で配線し,手動でスイッチをONにすることによって緊急地震速報のかわりの電球が点灯する。車両(P波)が鈴を鳴らしてから手動でスイッチをオンにするまでにはタイムラグがあるが,これを「気象庁のコンピューターが地震の発生位置や規模を計算している時間」と,「震源と規模を求めるのに必要な,地震を検知してから 2 ~ 3 秒以上の地震波のデータを取得する時間」(鷹野,2011))に見立てている。電球が点灯後,S波のモデル車両が通り過ぎる。電球を置く位置を変えることで,震源からの距離と緊急地震速報が届いてから強い揺れが来るまでの時間を調べることができる。
この実験モデルを学習することによって,地震の発生した場所と自分のいる地点との距離が増加するに従って,地震波が緊急地震速報よりも早く着く地域(ZONE A),緊急地震速報が届いてから強い揺れまでほとんど猶予がない地域(ZONE B),,緊急地震速報が届いてから強い揺れがはじまるまで時間的余裕のある地域(ZONE C),があることがわかる。地震に関するそれまでの学習と組みあわせれば,地震波が緊急地震速報よりも早く着く地域では大きな揺れになる可能性が高いことが理解できる。
なお,東日本大震災では,警報発表時には,過小評価された地震の規模と震度が,後続の情報で大きく成長した(鷹野,2011)。このような現象を理解することは,中学校レベルの学習では難しい。
このような実験を学習の中に組み込むことで,緊急地震速報の特性を実感を持って理解することができる。その上で,生徒に自ら考えさせる場面をつくり,ZONE Aのような震源に近い地域では,事前の準備が必要なこと,ZONE Bのような時間的余裕が数秒しかないところでは,安全空間への緊急避難が重要なことなどを,生徒に自ら考えさせる。このような授業展開ができれば,十分な緊急地震速報の読み取り能力を身につけたといえるだろう。
残念ながら,新型コロナウィルス禍のため,中学校現場で,本実験教材を用いた教育実践は行えていない。今後,この実験教材が,中学生の緊急地震情報情報リテラシーを向上させることができるかどうか,その教育効果を実証(反証されるかもしれないが)していく予定である。