日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-03] 小・中・高等学校,大学の地球惑星科学教育

2022年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、コンビーナ:丹羽 淑博(東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター)、座長:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター)

16:15 〜 16:30

[G03-10] 市販の隕石を用いた太陽系の学習教材の開発と実践

*平川 尚毅1井村 有里2北野 湧斗1三橋 礼2 (1.大阪教育大学 教育学部、2.大阪教育大学附属高等学校 天王寺校舎)

キーワード:コンドライト、スケールモデル、教材開発

1 背景と目的
 2020年12月,はやぶさ2の小惑星Ryuguからの帰還は大きな話題を呼んだ.今後もOsiris-Rexの帰還や火星の衛星探査(MMX: Martian Moons eXploration)など,太陽系探査にますます注目が集まるだろう.学校現場では,中学校や高等学校における太陽系天体の学習が行われており,各惑星の特徴や天体の運行の様子などが学習される.しかしながら,太陽系探査によって調査されるような物質科学についてはあまり扱われず,社会で注目される科学成果を理解するためには,教科書にとどまらない工夫が必要である.そこで本研究では,地球外物質の一例である隕石に着目し,太陽系の学習に資する教材及び,授業開発を行うこととした.

2 教材及び授業の開発
2-1 教材開発
2-1-1 隕石薄片と隕石の片面研磨標本

 用いた隕石は,市販で手に入れることのできたGhubara,NWA869で,いずれも石質隕石のコンドライトに分類される.縦×横×奥行きがそれぞれ20 mm程度のサイズで,1個あたり2000-3000円がAmazonで購入できた.まず,これらの薄片及び片面研磨標本を作製することとした.岩石切断機(パワーカッターMC-420)を用いて隕石の中心を通るように切断し,切断面をダイヤモンド砥石を用いて800#,1000#,3000#の順に研磨した.研磨面を十分に乾燥させた後,光硬化型樹脂であるUVレジンを用いてスライドグラスに接着した.薄片試料についてはさらに接着面とは反対側の面をダイヤモンド砥石を用いて800#,1000#,3000#の順に研磨し,UVレジンを用いてカバーガラスを接着した.

2-1-2 小惑星帯を含めた太陽系のスケールモデル
 多くの隕石にとってその故郷は小惑星である.中学校,高等学校で学習する太陽系天体の学習と隕石による物質科学的な学びを結びつけるために,太陽系のスケールモデルを小惑星帯も含めたものとして,考案することとした.地球をビー玉サイズ(直径15 mm)とする12億分の1の縮尺で太陽,惑星,ケレスそして無数の小惑星を模擬し,太陽と地球間の平均距離である1天文単位を1 mとする1500億分の1の縮尺で各天体の配置を行うこととした.尚,実習では各天体や距離の縮尺を生徒に行わせ,小惑星はグランドで採取できる砂を16メッシュの篩によって分けとり再現することとした.

2-2 授業開発
 本研究では,高等学校の生徒向けの授業実践を考案することとした.太陽系の形成史や地球上の岩石の組織について中学校レベルの知識から順序立てて補う必要があるため,開発した教材を用いた実習と講義を織り交ぜた2コマの内容とした.まず1コマ目の50分間は講義1として太陽系の形成史や隕石の故郷について15分間,実習1としてスケールモデルの作成35分間を扱う.2コマ目の50分間は講義2として物質進化の観点で見た太陽系の形成史やコンドライトとその母天体について30分間で扱い,実習2に開発した教材を用いた隕石の観察を20分間行う.

3 授業実践
 2021年7月15日,大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎の1・2年生38名を対象に110分間(活動の前後半の間に10分間の休憩あり)で実践を行った.実践はスーパーサイエンスハイスクール(SSH)活動の一環として行われた.参加した38名の生徒は実習の際には5名ずつの8班に分かれて活動を行った.
太陽系のスケールモデルを用いた実践(実習1)では,計算したサイズのものを身の回りから見つけて,計算した天体の位置に置く活動とした.班単位での計算問題や活動が含まれたものの,特に問題は生じず行うことができた.
実習2において生徒のスケッチを見ると,隕石中に様々な包有物を含むことが示されていた.またそれらには,片面研磨標本の溶融表皮やコンドリュール,メタルなどについて,その特徴がしっかり述べられていた.全ての生徒で十分なスケッチの時間を確保することができなかったが,講義の上観察すればコンドリュールの存在やメタルの存在について気づいて観察することが十分可能であると分かる.

4 考察
 生徒の感想及び,事後アンケートから本実践が生徒にとってどのようなものであったか考察したところ以下のようなことが分かった.
・本実践が生徒にとって実感を伴う,充実した時間であったこと.
・本実践内容は決して高等学校地学基礎・地学から独立したものではなく,それらの学びの発展で学習できるものであること.コンドライトを用いることで,物質進化の観点から太陽系の進化について学習できる.
・市販で入手可能な隕石を用いても,生徒が溶融表皮や包有物の観察を行うことができること.