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[G03-P03] 遠距離の地震波形を使用した震源作図教材と大森係数の検証
キーワード:大森公式,震源作図,遠地地震, TauP,走時曲線,,win2
大森の震源距離公式は,中学高校レベルでは,震源決定の実習に用いられる.3点の観測点の地震波形のPS時から震源距離を大森公式で求め,コンパスで地図上に円を描いて,震源を求める実習は今でも学生に人気が高い.しかし現在では,デジタル化のあおりを食って,以前に比べて良質な教材として用いることのできる波形データがむしろ入手しにくくなった.従ってこの種の波形教材の制作例も一部の例外(たとえば筆者らの,岡本ほか,2016)を除いてあまり見られない.そこで筆者の海外での観測点のデータを今回取り込んで,やや中〜遠距離の震源決定を2ヶ所の観測点の記録を用いる試みに挑戦した.1つは海外のタイの科学高校(KVIS)に筆者が設置した地震計,もう1つが筆者自宅に設置した同型の地震計の記録である.地震計は固有周期約3〜5秒程度の気象庁59型地震計に近い性能を目指して自作した(Okamoto,2018).気象庁の地震計と同様に信号の積分増幅を行い,短周期の速度信号を変位に変換するほか,長周期成分の感度を増大して遠地地震をとらえやすくしている.ここで問題となるのは,大森公式の係数の値となる.通常同式は,P波,S波速度が定数とみなせる近距離の地震での使用が前提である.しかし1000kmをはるかに越える遠距離ではもはやこの仮定は破綻する.そこで筆者は,地球内部の地震波線の描画用に作られたプログラムTauP(Crotwell et al.,1999)に着目した.このソフトの震源距離(角距離)に応じたP波,S波の走時を計算する機能を用いて.各震源距離別のP波,S波の走時を計算,それよりPS時間と震源距離との関係を示す変換図を作成した.この図を用いて,地震波形より,S-P時を読み取り,観測点から地震までの距離を計算することができる.前述のタイの科学高校と自宅での地震記録を用いた作図結果は大変良好で,求められた震央位置はUSGSが決定したものに近かった.学生実習としては大変満足できる結果と言える.しかし3000km程度の短い距離より,TauPの地震波線計算は錯綜し,1000kmを割ると走時が破綻する.そこで近距離については,防災科技研が所管するHinetのデータと波形処理ソフトwin2(伊東,2006)を用いて,再度PS時間と距離の関係を検証した.この結果により,TauP(震源距離>1000km)とwin2(<1000km)の間の失われた鎖を埋めることができた.それらの結果は,現在実際の地震波形記録と照合しつつある.