日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] ポスター発表

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[G-05] ジオパークで学ぶ日本列島の特徴と地球・自然・人の相互作用(ポスター発表)

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (26) (Ch.26)

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、コンビーナ:佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、郡山 鈴夏(糸魚川市役所)、コンビーナ:小原 北士(Mine秋吉台ジオパーク推進協議会)、座長:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)

11:00 〜 13:00

[G05-P17] 島原半島ユネスコ世界ジオパーク内の小・中学校におけるジオパーク学習の特徴と今後の課題

*森本 拓1 (1.島原半島ジオパーク協議会)

キーワード:ジオパーク学習、学習案内チラシ、学習の実施件数、学習内容の類型、学習実施者の属性

1. はじめに
 2021年度、島原半島ジオパーク協議会はジオパーク学習(以下、ジオ学習)の内容やプランをまとめた学習案内チラシを初めて作成し、島原半島内の島原市、雲仙市、南島原市の教育委員会を通じて小・中学校へジオ学習の導入を促した。その結果、過去最多となる全59校中36校でジオ学習を実施した。
 ジオ学習の増加の背景には、同協議会が提供するジオ学習が、新学習指導要領の導入により多様化している学校教育の学習ニーズに応えるために、「ふるさと教育」をはじめ、様々な教科で活用できると示したところが大きい。多忙化する学校教育現場の現状を踏まえると、今後もジオ学習の需要が一層見込まれる。
 しかし同協議会では、これまで多くのジオ学習の知見や教材を蓄積してきたものの、学習内容の類型や学習実施者の属性等、詳細な活動実態についてはあまり議論してこなかった。
 そこで本発表では、同協議会の過去10年間にわたる学校教育での活動実態を分析し、そこで浮き彫りになったジオ学習の特徴と課題から、今後のジオ学習の方向性を検討する。
 
2. ジオ学習の活動実態
2‐1.実施件数
 2012年度から2021年度までの10年間のジオ学習の累計件数は318件であった。その内、島原市は小学校82件、中学校78件、雲仙市は小学校67件、中学校6件、南島原市は小学校81件、中学校4件となり、小学校の件数は3市とも多い一方で、中学校の件数は島原市以外の他市では少ないことがわかる。
 2012年度と2021年度を比較したところ、島原市は18件から19件、雲仙市は4件から18件、南島原市は2件から16件となり、雲仙市と南島原市では大幅な増加がみられた。

2‐2.学習内容の類型
 ジオ学習の内容は、バスツアー、まち歩き、室内講話、災害学習、理科学習の5つに区分できた。各分類の10年間の累計件数は、バスツアーが151件と最多で、次いで災害学習が61件、室内講話が59件、まち歩きが33件、理科学習が14件となった。
 次に各分類を島原市、雲仙市、南島原市の市別でみると、バスツアーはそれぞれ105件、22件、24件、災害学習は29件、21件、11件、室内講話は16件、16件、27件、まち歩きは9件、11件、13件、理科学習は0件、3件、11件となり、各市で学習内容の傾向に違いがみられた。

2‐3.学習実施者の属性
 ジオ学習実施者の属性をみると、318件中ジオパーク専門員(以下、専門員)は174件、専門員・ガイド共同型は89件、ガイドのみは55件であった。
 さらに学習の内容では、専門員はバスツアーと室内講話が共に57件と最多で、専門員・ガイド共同型ではバスツアーが84件と大きく占めた。ガイドのみでは、災害学習が34件と最多になった。
 また年度別では、2012年度は24件全てのジオ学習を専門員が実施していたが、2021年度は53件中、専門員が23件、専門員・ガイド共同型が12件、ガイドのみが18件と、ガイドの活躍の場が増えたことがわかる。

3.ジオ学習の特徴と課題
 上記の分析から、当初は主に島原市で行われていたジオ学習が、10年を経て小学校を中心に他市に広がったことがわかる。学習内容は、島原市では災害学習やバスツアーが多かったが、雲仙市及び南島原市では、バスツアーをはじめ、室内講話や理科学習、まち歩きと多面的に学習が行われてきた。
 各市で異なるジオ学習の特徴が生まれた要因の一つには、島原半島内にあるサイトの種別の分布があると考えられる。島原市では、雲仙火山の噴火災害関連のサイトが多い一方で、目立った地質サイトは少ないため、他市にある露頭等の地質サイトを見学するために、バスツアーが多く行われてきた。雲仙市と南島原市では、主要な地質サイトや自然サイトを軸にして、それらのサイトを巡るバスツアーや理科学習が実施されてきた傾向がある。また主要なサイトが少ない地域の学校では、専門員による独自の室内講話やまち歩きプログラムが提供されてきた。
 ジオ学習の実績が拡大する一方で課題も明らかになった。それは依然として実施件数が少ない中学校への学習の導入や、ガイドによるジオ学習の内容が災害学習やバスツアーに偏っており、それ以外のまち歩き等の学習がほとんど行われてこなかった点である。特に後者は、専門員のノウハウに頼ってきた学習内容を、今後はガイドも実施できるようにするための体制づくりが必要になる。

4.今後の展望
 ジオ学習は、地域の持続可能な発展を目指して、子供たちの郷土愛の醸成と、地球規模での環境と人の暮らしの関わりへの理解を育むための教育活動である。今後もジオ学習の増加とともに、求められる学習内容も多様化していくであろう。こうした学習ニーズに応えるためにも、様々な学習内容を提供できるガイドの養成や育成をはじめ、専門員のみに依らず地域内のあらゆるジオパーク関係者が主体となって、ジオ学習の「担い手」を増やしていくことが重要である。