日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-05] ジオパークで学ぶ日本列島の特徴と地球・自然・人の相互作用(ポスター発表)

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (26) (Ch.26)

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、コンビーナ:佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、郡山 鈴夏(糸魚川市役所)、コンビーナ:小原 北士(Mine秋吉台ジオパーク推進協議会)、座長:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)

11:00 〜 13:00

[G05-P20] 小学校6年生向け理科副読本の作成と活用 ~桜島・錦江湾ジオパークの取り組み~

*吉瀬 毅1 (1.鹿児島市世界遺産・ジオパーク推進課)

キーワード:桜島、錦江湾、ジオパーク、桜島・錦江湾ジオパーク、理科副読本

はじめに
ジオパークプログラムでは、1.保全, 2.教育, 3.ジオツーリズム(持続可能な開発)を活動の3本柱にしている。この3本柱の活動は、ピラミッド構造をした三角図で表現される場合が多い。その三角図の中で、2.教育1.保全3.ジオツーリズムの中間に位置し、両者を橋渡しする役割がある。発表者は、2.教育が機能していない場合、以下のような事態に陥る事について懸念している。
・保全したジオパークの資源(ジオ資源)が、意図しない方法で利用をされる。
・利用したジオ資源で、意図しない保全活動をされる。
2.教育活動によって、ジオパークエリアのサイトの歴史や現状を学ぶことで、ヒトと自然とのつながりについて理解し、適切な保全や利用方法について学ぶことができる。このような教育活動の取り組みは、数ある教育の中でもジオパークプログラムでしかできないだろう。そこで、桜島・錦江湾ジオパークでは取り組みの一つとして2017年から、小学校6年児童向けに、桜島・錦江湾ジオパークエリア内のジオ資源を教材として使用した、理科副読本を作成している(片平 2017; JGN全国大会)。この理科副読本は初版を発行して以来、桜島・錦江湾ジオパークエリア内の小学校6年児童に対して配布し、理科の授業で活用している。本発表では、この取り組みを通じて得た、ノウハウや知見、今後の展望について共有したい。

編集の内容・方針
桜島・錦江湾ジオパークでは、2017年から地球科学のアドバイザーと鹿児島市内の小学校教諭を編集委員として副読本を作成してきた。また桜島・錦江湾ジオパークのエリア拡大に合わせて、2019年からは姶良市と垂水市の小学校教諭を副読本の編集委員に加えて改訂を続けてきた。編集の基本方針として、副読本が理科の授業で利用され、児童が教科書と同等の内容を学習できる事を狙った。そのため、副読本の構成は学習指導要領に従い、全国で使用されている教科書と同じ構成にした。
さらに、桜島・錦江湾ジオパークのエリア拡大を契機に副読本の構成・掲載する素材(ジオ資源)の見直し、デザインの刷新を行った。編集による影響を把握するために、2019年から副読本を配布した全小学校(休校中を含む全105校)に対して継続してアンケート調査を行っている。

アンケート調査と結果
アンケート調査は、授業で使用したか(利用率)、自由記述の項目について行った。アンケートの回答は、2019年は103校中84校(81.6%)、2020年は105校中66校(62.9%)、2021年は106校中93校(87.7%)から得た。授業での利用率は2019年で74.8%、2020年で61.0%だったが、最新の2021年では過去最大の83.0%となった。自由記述を抽出した結果、エリアをジオパークエリアに限定することによって、副読本が授業に使われる以外にも様々なメリットがある。実際に野外学習に出かけた事や、児童にとって身近な地域について取り扱っているため親近感がわく事、親近感がわくことによる学習内容の理解が深まる事などがあげられる。発表者はアンケート結果を受けて、児童が副読本を手に野外学習に行き、地域に親近感を持ったことをきっかけに、適切な保全や利用方法について学ぶことを期待している。

改善点
2020年から2021年にかけて、副読本の構成・掲載する素材(ジオ資源)の見直し、デザインの刷新を行った。その結果、利用率が前年までと比較して格段に上がった。利用率が上がった理由として、発表者は、掲載する素材の変更とデザインを刷新したことに注目する。副読本の構成は2019年の学習指導要領改訂に合わせて段階的に行っているので2021年に利用率が上がった理由としては考えにくい。
掲載する素材は2019年のエリア拡大に合わせて段階的に変更している。掲載する素材の変更は、使用する写真の枚数や地域が限られているため、満足度や使いやすさに直接つながるとは考えにくい。しかし、アンケートの自由記述に、副読本に掲載された素材を学習教材として活用した事例は多い。こうした地域に密着した資料の選定が、利用率を上げた一因となっただろう。
発表者は、副読本全体のデザインを刷新したことが、評価を向上させた大きな要因だと考えている。2021年は副読本のデザインを刷新し、桜島・錦江湾ジオパークのVIに合わせた。桜島・錦江湾ジオパークのブランドデザインは、「小学生の子供がいる家族」を対象に作られている(福島, 2018;日本火山学会秋季大会)。対象に合わせて副読本のデザインを変更したため、授業を担当した小学校教諭にとって使いやすくなり、利用率が上がったのだろう。
2021年の改訂によって、桜島・錦江湾ジオパークのメッセージが伝わる効果・効率が上がったとも言える。今後、さらに副読本に掲載する素材と、副読本全体のデザインの見直しを図りたい。

まとめ
桜島・錦江湾ジオパークでは2017年から継続して小学校6年生向けに理科副読本を作成・配布している。ジオパークエリア内の資源を厳選した副読本を小学校の理科の授業で使用することによって、児童にとって野外学習の機会を創出する事、身近なエリアについて学習し親近感がわく効果が見込まれる。
さらに副読本は義務教育で使用されるため、エリア全体の全児童に行き渡る。デザインの工夫次第では、地域学習の効果だけではなく、ジオパークのメッセージが伝わる効果・効率を上げる効果も期待できる。