日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG24] 原子力と地球惑星科学

2022年5月23日(月) 09:00 〜 10:30 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)、コンビーナ:長谷川 琢磨(一般財団法人 電力中央研究所 )、笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、座長:新里 忠史(日本原子力研究開発機構)、長谷川 琢磨(一般財団法人 電力中央研究所)

09:15 〜 09:30

[HCG24-02] 長野県大鹿村における付加体中の水理地質構造の予察的検討―深部流体の湧出領域と地質構造との関係性について

*楠原 文武1幡谷 竜太1、近藤 浩文1、大山 隆弘1、濱田 崇臣1 (1.電力中央研究所)

キーワード:水理地質、深部流体、付加体

地層処分事業において、地下水を媒体とした核種移行(地下水シナリオ)を考える上で、水理地質構造は基本情報である。しかし、我が国の地下深部に広く分布すると考えられている付加体の中で、どのような経路で地下水が流動しうるかについてはよく分かっていない。
地下深部に起源をもつ地下水が地表に湧出していることが日本各地で報告されている。このような地下水は深部流体と呼ばれ、地層処分のサイト選定上考慮すべきものと考えられている。見方を変えると、深部流体の分布は、地下水が地下深部から地表へ到達する湧出経路を表していると考えられる。そこで、深部流体を指標にして、それらの分布が地質・地質構造とどのような関係にあるかを明らかにすることにより、付加体中の水理地質構造を解明することを目的として、本研究を実施している。
本研究では、付加体が分布し、かつ深部流体の湧出が既往研究により知られている、長野県大鹿村を事例研究地域とした。地表踏査および採水分析により、地質・地質構造と地表水の水質との関係を調査し、地質構造と深部流体の湧出領域との関係について考察した。
事例研究地域には中央構造線が南北に走り、その東側に沿って三波川帯の片岩類および御荷鉾帯の緑色岩類が帯状に分布している。先行研究では、片岩類と緑色岩類の間の2つの岩相境界(西側を境界A、東側を境界Bと呼称する)に関して、境界面の姿勢や断層であるか否かについて見解が分かれていた。地表踏査で得られた露頭データから、A境界は約30度の東傾斜、B境界は鉛直に近い直線状であると考えた。また境界付近において、片岩類の片理面と境界面が大きく斜交することから、両境界とも断層であると推定した。
事例研究地域を西向きに流れる塩川・小渋川の河川水のCl濃度を測定した結果、塩川では、中央構造線付近ならびにB境界付近の2つの区間でCl濃度の急激な上昇が観測された。事例研究地域中の沢水のCl濃度を測定した結果、深部流体が混入していると考えられる高Cl濃度の小沢が、中央構造線とA境界の間、およびB境界東側近傍に主に分布しており、いずれも片岩分布域に沿って南北に連なっているように見える。
このことは、深部流体の流出経路が、①中央構造線および境界B、または、②片岩類の分布に関連していることを示唆する。塩水を伴う小断層がB境界付近で見つかったこと、片岩類自体は非常に緻密な岩石であることを考え合わせると、①が寄与している可能性が高いことが示唆される。
今後は、塩水が湧出している箇所のより詳細な地表踏査と水質調査を実施し、湧出経路と地質・地質構造の対応関係の解明を試みる。