日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG24] 原子力と地球惑星科学

2022年5月23日(月) 10:45 〜 12:15 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)、コンビーナ:長谷川 琢磨(一般財団法人 電力中央研究所 )、笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、座長:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、久保 大樹(京都大学大学院工学研究科)

11:00 〜 11:15

[HCG24-08] 葉山層群中の炭酸塩コンクリーションの水理・力学的特性

*後藤 慧1竹内 真司2中村 祥子3、吉田 英一3 (1.日本大学総合基礎科学研究科、2.日本大学文理学部地球科学科、3.国立大学法人東海大学国立機構 名古屋大学)

キーワード:コンクリーション、シーリング機能

はじめに コンクリーションは、堆積岩中に認められる、硬く凝結した岩石の総称である。Yoshida et al.(2015, 2018, 2019, 2020)は、ツノガイの化石を核として持つ球状炭酸塩コンクリーションを分析し、これらが海底堆積物中に埋没した生物遺骸から拡散した有機酸と海水中のカルシウムイオンとの過飽和・沈殿反応によって形成されることや、その形成が数年~数十年という、地質学的には極めて短期間で完了することを明らかにした。現在、この急速な形成反応のメカニズムを、地下空間におけるシーリング技術へ応用することなどが検討されている。
炭酸塩コンクリーションの内部ではカルシウムなどの濃度が概ね均質に分布することが元素分布測定などから明らかとされている(Yoshida et al. 2015, 2018)。一方で、シーリング機能を工学的観点から評価する上で重要な透水特性や硬度などの水理・力学特性を検討した事例はほとんどない。そこで本研究では、コンクリーション試料の空隙率分布測定や変水位透水試験、エコーチップによる硬度分布の測定を行ない、コンクリーションが持つ工学的特性を検討した。
試料の採取 用いたコンクリーション試料は、神奈川県三浦半島に分布する新第三紀葉山層群から産出したもので、採取地点は半島南岸の野比海岸および、西岸の長者ヶ崎海岸である。
野比海岸では、長軸が数十cmの暗灰色の球状コンクリーションが、灰白色の泥岩露頭中に認められる。また、長者ヶ崎海岸では、長軸が数cm~十数cmで球状あるいは釣鐘型~長柱状のコンクリーションが砂浜中に転石として漂着する。これらは蟹江(2012)などによれば、海底に露出する葉山層群の露頭から洗い出されて海岸に漂着した可能性が高いとされている。
実施方法 水理特性(空隙率測定、変水位透水試験) 空隙率測定は、野比海岸で得られた球状コンクリーション本体と周辺母岩を対象に、岩石片試料の乾湿重量測定によりそれぞれ空隙率を算出した。また、母岩付きの不定形コンクリーションの切断面を光学電子顕微鏡で観察し、コンクリーションの中心部から外縁部、さらに母岩部にかけて空隙の分布傾向の変化を確認した。
変水位透水試験は、野比海岸で採取した球状コンクリ―ションを直径5cm、厚さ3cmでコアリングし、これを水で飽和させた後、変水位透水試験により水位低下量と経過時間から透水係数を算出した。 力学特性(硬度測定) エコーチップ試験機により硬度測定を実施した。野比海岸および長者ヶ崎海岸で採取したコンクリーションを対象に実施した。各試料は、切断研磨した岩石表面に1 cm四方の格子線を引き、各格子の中心点を10回打撃し、後半5回の測定値の平均値をその格子の硬度とした。その後、各格子の硬度の相対的な高さ分布を色分けし可視化した。
実施結果 空隙率測定の結果、コンクリーション内部の空隙率は0.014~0.022、周辺母岩は0.46~0.54であり、周辺母岩に比べコンクリーションは空隙が少なく緻密であることが示された。またコンクリーション内部の空隙分布を光学電子顕微鏡で確認したところ、中心部ほど空隙が少なく、外側へ向かうほど増加する傾向が見られた。
変水位透水試験の結果、野比海岸の母岩部の透水係数は約2.0E-7(m/s)であった。コンクリーション部の透水係数はそれぞれ、不定形のものが約8.0E-8(m/s)、球状のものが約3.0~6.0E-10(m/s)となり、いずれのコンクリーションも母岩部に比べ透水係数は1桁以上低い値を示した。
また硬度測定の結果、長者ヶ崎海岸のコンクリーションでは中心部から外縁部に向けて値が低下する傾向を示した。また、野比海岸の母岩付きコンクリーションにおいても、コンクリーション中心部から外縁部、そして母岩部に向けて徐々に軟化する傾向を示した。硬度分布から考えられる材質強度の特徴は、空隙の分布傾向とも整合的である。
まとめ 新第三紀葉山層群中のコンクリーションの工学的特性を検討した結果、コンクリーション本体は周辺母岩と比べて緻密で透水性が低く、かつ硬質であることが定量的に示された。このことは、コンクリーションが母岩よりも硬質で風化に強いという特徴と整合的である。コンクリーションの空隙が外縁部に向かうほど増加し、かつ硬度が低下する傾向は、コンクリーションの外側が地下水などの周辺環境に晒され風化・変質しやすく、内側ほどシーリングによる強度が維持されていることを示していると考えられる。
コンクリーション内部の元素濃度の分布は比較的均質であるというYoshida(2015, 2018)らの観察結果に対して、今回の水理・力学特性から読み取れる空隙や硬度の分布は不均質であった。この要因として、炭酸カルシウムの結晶成長後の酸化性地下水による炭酸塩の溶脱が考えられる。