日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG24] 原子力と地球惑星科学

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (15) (Ch.15)

コンビーナ:竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)、コンビーナ:長谷川 琢磨(一般財団法人 電力中央研究所 )、笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、座長:竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)

11:00 〜 13:00

[HCG24-P05] 処分場の閉鎖後安全評価のための四次元地質環境モデル構築技術の整備の取り組みについて

*松岡 稔幸1、三枝 博光1、尾上 博則1、髙畑 祐美1、高林 佑灯1 (1.原子力発電環境整備機構)

キーワード:地層処分、四次元地質環境モデル、地質環境特性、長期変遷

1.はじめに
 地層処分の対象となる放射性廃棄物を数万年以上の長期間にわたって岩盤により人間の生活環境から隔離し、人工バリアと天然バリアからなる多重バリアシステムによって閉じ込めることができるようにするためには、自然現象の著しい影響を回避し、地層処分の観点から好ましい特性が長期にわたって安定に維持される地質環境を選定する必要がある。このため、長期にわたる地形変化や気候・海水準変動に伴う地質環境特性(特に地下深部の水理場・化学場)の時間的・空間的変化を考慮するための四次元地質環境モデル(三次元空間+時間軸を考慮した地質環境モデル)の構築技術を処分場の設計や安全評価との連携を図りながら整備することが重要であり、それに向けた取り組みの現状を紹介する。

2.実施内容
(1) 地形・地質構造モデルの構築
 包括的技術報告書(NUMO,2021)で整理した、わが国の地下深部に広く分布する三種類の岩種(深成岩類、新第三紀堆積岩類、先新第三紀堆積岩類)の地質学的特徴を考慮して、それぞれの岩種を対象とした地形・地質構造モデルを構築した。モデル化領域は、広域的な地下水流動系の範囲や海水準の低下による陸化面積を考慮して約100km×約50kmの領域を対象とした。さらに、海水準変動に伴う最大海進時及び最大海退時を想定した現在から約100万年後までの期間における20時間断面を対象に、隆起速度等を設定して、地形・地質構造の長期的な変遷をモデル化した(Figure 1)。
(2) 水理地質構造モデルの構築
 各時間断面における地質構造モデルにおいて表現した地質・地質構造要素に水理特性を設定することによって水理地質構造モデルを構築した。
(3) 地下水流動・物質移行解析
 地下水流動や塩分濃度の時空間分布を算出するために、構築した各時間断面の水理地質構造モデルを用いて、以下に示す地下水流動・物質移行解析を実施した(Figure 2)。
・地形の変化を考慮した水理地質構造モデル、及び気候・海水準変動を考慮した境界条件の時間変化を設定することで、地形や気候・海水準の連続的な変化を考慮した非定常の三次元地下水流動・物質移行解析
・塩分濃度分布の長期変化を評価するために、亀裂内の移流・分散とマトリクス拡散の両者を考慮した地下水流動・物質移行解析
(4) 設計・安全評価への反映に係る検討
 四次元地質環境モデルの設計・安全評価への具体的な反映方法を検討するために、(1)~(3)の成果に基づき、以下の検討を実施した。
(a) 断層や地層の分布や、地下水の移行時間、地下水の流速分布、塩分濃度の時間的・空間的変化等を考慮した処分場地下施設設置可能領域の抽出
(b) 処分場地下施設設置可能領域から、分散効果や、地形の変化に伴う出発点位置の変化、及び断続的な粒子の出発を考慮した粒子追跡線解析
(c) 地層処分システムの状態変遷や、それを踏まえた安全機能の発揮の仕方等を表現するストーリーボード作成に資するための以下の情報の整理
・広域スケールにおける地質環境の水理場及び化学場の状態及びその不確実性
・処分場地下施設設置可能領域からGBI(Geosphere-Biosphere Interface)までの範囲における移行経路沿いの局所的な流速分布や塩分濃度分布とその時間変化、及びその不確実性

3.結果
 これまでの検討を通じて、以下のように四次元地質環境モデルの構築において実施すべき作業内容を細分化するとともに、作業手順(着目すべき点や留意点含む)等を整理することができた。
(1) 長期の地形・地質構造の時間変遷を考慮した時間断面設定の考え方
(2) 地形・地質構造モデル構築の考え方
 ・モデル構築の際に考慮すべき地形・地質構造、自然現象等の抽出方法
 ・抽出した地形・地質構造、自然現象等をモデル構築に反映するための考え方
(3) 水理地質構造モデル構築及び地下水流動・物質移行解析技術の整理
 ・多孔質媒体や亀裂性媒体等の選択を含む水理地質構造モデル構築の考え方
 ・領域設定、境界条件、初期条件、解析パラメータの設定の考え方

4.今後の取り組み
 今後は、これまでに整備してきた四次元地質環境モデル化技術を用いた妥当性確認に係る検討を実施する。さらに、より現実的な処分場の設計や安全評価に反映するための四次元地質環境モデルの構築に必要なデータやそれを取得するための調査項目、モデル構築の際に着目すべき点や留意事項を含む作業手順等を整理し、四次元地質環境の体系的なモデル化技術として整備する。

文献
NUMO (2021), 包括的技術報告:わが国における安全な地層処分の実現-適切なサイトの選定に向けたセーフティケースの構築-, NUMO-TR-20-03.