11:00 〜 13:00
[HCG24-P10] 福島県南相馬市周辺の地下水流動特性について-1F事故に伴う放射性セシウムの移行の観点から-
キーワード:地下水流動解析、パーティクルトラッキング解析、放射性セシウム
1.はじめに
東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故により,広範囲に放射性セシウム(以下,Cs)が放出され,阿武隈山地には比較的高濃度のCsが降下・沈着した。これまでの研究ではCsの多くは地表土壌等に強く吸着されていることが明らかとされてきたものの,土壌が薄い地域や基盤の花崗岩類が地表に露出する場所では基盤岩中に移行する可能性は否定できない。
本研究では,福島県南相馬市の阿武隈山地から海岸に向けた地域を対象に,公開された地形データと地質情報に基づいて異なる解析領域において地質モデルを構築し,地下水流動解析とパーティクルトラッキング(粒子追跡線)解析を実施し,地下水の移動経路や移行時間を推定した。
2.研究対象領域と解析方法
研究対象域周辺の地形・地質は,花崗岩類を基盤とする西側の阿武隈高地と堆積岩類が分布する東側の低地部から構成される。両者の境界には南北走向の双葉断層帯が存在する。
この領域の堆積岩類は,久保ほか(1990)によれば新第三紀後期鮮新世の大年寺層の砂岩泥岩互層が地表付近に概ね水平に広く分布する。更にその下位には,前期鮮新世の向山層,ジュラ紀後期の中ノ沢層と栃窪層が海側に傾斜して分布する。またこれら堆積岩類の基盤は花崗岩類とされている。また,断層の西側の山地部は中生代の花崗閃緑岩で構成される。
解析は東西約15㎞,南北約11㎞内に含まれる領域を対象に花崗岩類と堆積岩類を含む広域スケールと主に堆積岩分布域を対象とした狭域スケールの2つの解析領域を設定した。地質図幅にもとづき地質モデルを構築し,各地質の水理パラメータを既存情報等を参照して構築した水理地質構造モデルに基づき,有限差分法コードであるVisual MODFLOW®を用いて地下水流動解析を実施した。なお,双葉断層帯と泥岩層の透水係数については解析領域の地下水流動に影響すると考え,複数の透水係数を与えた感度解析を実施した。解析の境界条件は地表面に解析領域周辺の年平均降水量を与え,側方境界については海域,河川,ため池などは標高に応じた固定水頭境界,その他は不透水境界を設定し,定常の地下水流動解析を行った。またパーティクルトラッキング解析は,断層より西側の山地部の地表面からパーティクルを投入した際の領域境界に到達するまでの移行時間と移行経路を計算した。
3.解析結果
3.1 パーティクルトラッキング解析
広域スケールでの解析の結果,山地部から放出された粒子は,双葉断層の手前,平野部,そして解析領域の東側境界(海域)に流出した。さらに,上述の平野部における流出箇所は特定の3地点であった。また、狭域スケールでの解析の結果,山地部から放出された粒子は,双葉断層の西側と領域の東側境界中央部のため池,そしてモデル底面付近から境界に流出した。これらの傾向は,断層と泥岩の透水係数に関わらず同様の傾向となった。これらのことから,この地域の地下水流動特性に地形が大きく影響していることが示唆される。
3.2 移行時間と移行距離の関係
広域スケールおよび狭域スケールの解析結果から,山地部から放出された粒子の移行時間と移行距離の関係を表すグラフ上での分布は,パーティクルの流出地点に応じてグルーピングされる結果となった。また,これらのグループごとに分布するパーティクルの数は,双葉断層と泥岩の透水性によって変化することが明らかとなった
4.まとめと今後の課題
広域スケールおよび狭域スケールのパーティクルトラッキング解析によって,断層西側から放出された粒子群流出地点は,いずれのスケールでも領域中央部のため池に流出する結果となった。仮に放射性セシウムのうち岩石に吸着されずにコロイド状態で流動するものが存在する場合には,ため池周辺に流出することが想定される。したがって,今後,ため池付近での地下水中の放射性セシウム濃度の分析や空間線量率の測定などを行っていく必要がある。さらに水理地質構造モデルにおける水理パラメータの設定値についても現地調査等でデータを充実させ,解析の信頼性を向上させていく必要がある。
東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故により,広範囲に放射性セシウム(以下,Cs)が放出され,阿武隈山地には比較的高濃度のCsが降下・沈着した。これまでの研究ではCsの多くは地表土壌等に強く吸着されていることが明らかとされてきたものの,土壌が薄い地域や基盤の花崗岩類が地表に露出する場所では基盤岩中に移行する可能性は否定できない。
本研究では,福島県南相馬市の阿武隈山地から海岸に向けた地域を対象に,公開された地形データと地質情報に基づいて異なる解析領域において地質モデルを構築し,地下水流動解析とパーティクルトラッキング(粒子追跡線)解析を実施し,地下水の移動経路や移行時間を推定した。
2.研究対象領域と解析方法
研究対象域周辺の地形・地質は,花崗岩類を基盤とする西側の阿武隈高地と堆積岩類が分布する東側の低地部から構成される。両者の境界には南北走向の双葉断層帯が存在する。
この領域の堆積岩類は,久保ほか(1990)によれば新第三紀後期鮮新世の大年寺層の砂岩泥岩互層が地表付近に概ね水平に広く分布する。更にその下位には,前期鮮新世の向山層,ジュラ紀後期の中ノ沢層と栃窪層が海側に傾斜して分布する。またこれら堆積岩類の基盤は花崗岩類とされている。また,断層の西側の山地部は中生代の花崗閃緑岩で構成される。
解析は東西約15㎞,南北約11㎞内に含まれる領域を対象に花崗岩類と堆積岩類を含む広域スケールと主に堆積岩分布域を対象とした狭域スケールの2つの解析領域を設定した。地質図幅にもとづき地質モデルを構築し,各地質の水理パラメータを既存情報等を参照して構築した水理地質構造モデルに基づき,有限差分法コードであるVisual MODFLOW®を用いて地下水流動解析を実施した。なお,双葉断層帯と泥岩層の透水係数については解析領域の地下水流動に影響すると考え,複数の透水係数を与えた感度解析を実施した。解析の境界条件は地表面に解析領域周辺の年平均降水量を与え,側方境界については海域,河川,ため池などは標高に応じた固定水頭境界,その他は不透水境界を設定し,定常の地下水流動解析を行った。またパーティクルトラッキング解析は,断層より西側の山地部の地表面からパーティクルを投入した際の領域境界に到達するまでの移行時間と移行経路を計算した。
3.解析結果
3.1 パーティクルトラッキング解析
広域スケールでの解析の結果,山地部から放出された粒子は,双葉断層の手前,平野部,そして解析領域の東側境界(海域)に流出した。さらに,上述の平野部における流出箇所は特定の3地点であった。また、狭域スケールでの解析の結果,山地部から放出された粒子は,双葉断層の西側と領域の東側境界中央部のため池,そしてモデル底面付近から境界に流出した。これらの傾向は,断層と泥岩の透水係数に関わらず同様の傾向となった。これらのことから,この地域の地下水流動特性に地形が大きく影響していることが示唆される。
3.2 移行時間と移行距離の関係
広域スケールおよび狭域スケールの解析結果から,山地部から放出された粒子の移行時間と移行距離の関係を表すグラフ上での分布は,パーティクルの流出地点に応じてグルーピングされる結果となった。また,これらのグループごとに分布するパーティクルの数は,双葉断層と泥岩の透水性によって変化することが明らかとなった
4.まとめと今後の課題
広域スケールおよび狭域スケールのパーティクルトラッキング解析によって,断層西側から放出された粒子群流出地点は,いずれのスケールでも領域中央部のため池に流出する結果となった。仮に放射性セシウムのうち岩石に吸着されずにコロイド状態で流動するものが存在する場合には,ため池周辺に流出することが想定される。したがって,今後,ため池付近での地下水中の放射性セシウム濃度の分析や空間線量率の測定などを行っていく必要がある。さらに水理地質構造モデルにおける水理パラメータの設定値についても現地調査等でデータを充実させ,解析の信頼性を向上させていく必要がある。