日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG27] 人間の社会活動と地球惑星科学

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (19) (Ch.19)

コンビーナ:天野 一男(東京大学空間情報科学研究センター)、コンビーナ:小口 高(東京大学空間情報科学研究センター)、山本 佳世子(国立大学法人 電気通信大学)、コンビーナ:河本 大地(奈良教育大学)、座長:天野 一男(東京大学空間情報科学研究センター)

11:00 〜 13:00

[HCG27-P06] 「石のかおコンテスト」を通じた地質多様性の普及

*香取 拓馬1小河原 孝彦1、小林 猛生2、Brown Theodore2竹之内 耕1茨木 洋介1 (1.フォッサマグナミュージアム、2.糸魚川ジオパーク協議会)

キーワード:ジオパーク活動、地質多様性、ソーシャルメディア、ジオアート、普及活動、サイエンスコミュニケーション

1 はじめに
糸魚川ユネスコ世界ジオパークは,2009年に日本で初めて世界ジオパークに認定された地域の一つである.日本列島の地質を分断する糸魚川―静岡構造線が通り,西側には国石・ヒスイを含む古い時代の岩石(蛇紋岩・石灰岩・チャート・花崗岩など),東側にはフォッサマグナを埋め立てた新しい時代の岩石(流紋岩・安山岩・砂岩・泥岩など)がそれぞれ分布する.この地質多様性により,糸魚川の海岸には様々な種類の岩石が集積している.この自然資源を地域振興に活用するため,当ジオパークのある糸魚川市ではシティープロモーション「石のまちプロジェクト」に取り組んでいる.本発表では,2021年に実施した「石のかおコンテスト」の内容と普及効果について報告し,ジオパーク理念に基づく今後の展開について議論する.

2 石のかおコンテスト
 本事業は,「身近にある石をアートに!」をキーワードとし,近所の海岸や河原の石を組み合わせて,自分だけの「石のかお」作品を制作してもらう取り組みである.コンセプトデザインは,有名な絵本作家であるtuperatuperaと共同開発し,「石のかお」のモデルに名前と性格を考えてもらうことで,体験者の想像力を掻き立てる工夫を施した.このことにより,ユニークな作品の制作を助け,作品と石に愛着を感じてもらうことができる.
コンテストでは,この「石のかお」作品を2021年10月18日から12月19日にかけて一般募集した.作品の応募は,SNS(Instagram・Twitter)のハッシュタグ機能を活用し,参加者が「石のかお」写真をSNSに投稿するだけの形式とした.投稿者の中には,数万人のフォロワーを持つ方の作品もあり,その制作動画の投稿は,3万回以上再生されている.その結果,約1,300個の作品がSNSに投稿され,専用のSNSアカウントは,Instagram約3,800,Twitter約570のフォロワー数を獲得した(R3.12月現在).

3  普及効果と今後の展開
 今回のコンテストでは,形や模様といった誰にでも伝わる切り口から,身近にある石にも様々な種類があり,一つとして同じ石がないということを認識してもらうことができた.これは,地質多様性を実感する入口として有効なツールであり,ヒスイ等特定の岩石の過剰採取を抑止することで,地質資源の保護意識の啓発にも寄与すると考える.また,投稿者の年代は,小学生以下の子どもがいる親子世代が多く,比較的,地学やジオパークに関心の薄い世代の巻き込みにも成功している.このようなSNSを活用した情報拡散は,作品募集にほとんど費用がかからないことから,費用対効果の高いプロモーション戦略であると言える.
 今後,地学やジオパークの入口にいる関心層に対し,ジオパークをより楽しんでもらうためにも,学びの深化を促す仕掛けが必要であろう.当ジオパークでは,海岸で見つけた石の無料鑑定を行なっており,コロナ前の年間利用者は約2万人を数える.このサービスを発展させ,自分で見つけた石と同じ種類の石のカードを配布する新たな仕組みを検討している.カードには,その石の属性(堆積岩・火成岩・変成岩などの分類)や糸魚川ジオパーク内における産地などを記載し,カードをコレクションしていくことで石の地学的背景と地域の成り立ちを学ぶことができる.「石のかお」と「石のカード」のように,来訪者の関心度に合わせた多層的なコンテンツの展開は,より幅広い人にジオパーク活動を普及していく鍵になると考える.